山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
16年目の初心
新天地に入職して1か月。
10年ぶりの特養介護ですが、先輩たちの親切な指導により、だいぶ環境にも慣れてきました。歓迎会もしていただき、この業界に入って16年目ですが、新人職員として気持ちを新たにしているところです。
職場というのは、長くいればいるほど、任される仕事も多くなり、責任も重くなります。つまり、忙しくなる。忙しいというのは、時間に追われるということ。限られた時間の中でさまざまな仕事をこなしていくには、一つひとつの仕事をできるだけ短時間で終えていかなければ、終わるはずもない。時間との戦いとなっていきます。
私は元々介護の仕事をしたくて、この業界に入ってきました。最初の頃は、利用者さんの介護をしながら、話をしたり、笑ったり、一緒に歌を唄ったり。そうしている時間が楽しかった。何よりも、利用者さん第一で物事を考えていました。
しかし、時が経って、現場を任されたり、責任あるポストになっていくと、管理業務や事務仕事が増え、いつしかその比重は逆転していました。利用者さんと接している時間が長くなると、事務仕事が終わらない。利用者さんから声をかけられると、いつしかできるだけ短時間で切り上げようとしている自分がいました。
新しい職場に来て数日が経った頃、ある女性利用者さんの就寝介助をさせてもらいました。
お部屋に行って、パジャマに着替えをしていると、「ねえ、あなたはいつまで一緒に居てくれるの?」と聞かれました。「え? 今日はもうすぐ帰るけど、明日も来るし、これからも一緒だよ」と答えると、「これからも一緒に居てくれるの? 私はこの後、一人ぼっちにならない?」と悲しい顔をされていたので、「○○さん、どうしたの? 俺たちずっと一緒だから、心配することないよ」と答えると、「だって、主人が死んじゃったから…。私、一人だから…」と涙を流していました。
悲しみと不安が伝わってきて、胸が締め付けられる気持ちになりました。
「大丈夫だよ。○○さんより、俺のほうが少し長生きするだろうから、最後まで守ってあげる。心配いらないよ」と言うと、涙を拭いながらニッコリ笑ってくれました。
少子高齢化社会、時代の流れとしても、これからは夫婦のみや独居高齢者が増えていきます。孤独、淋しさを感じながら、高齢期を迎える方も多い。そういう方が、もし施設で暮らすとしたら、そこで出会う介護職が優しかったら、どんなに救われるだろう。逆にそうじゃなかったとしたら…。
一人ひとりに歴史がある。どんなに忙しくても、一人ひとりの生きてきた歴史を尊重できる人間でありたい。寝たきりになっても、認知症になっても、一人ひとりの声にならない声に耳を傾ける人間でありたい。
介護業界に入って16年目。新しい職場に来ることで、初心に戻ることができました。