山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
45歳の再出発
新天地の特養での仕事がスタートしました。
与えられた仕事は、『人材育成担当』。今までなかったポストをご用意いただきました。
文字どおり、職場内の人材育成と、地域・社会への発信を期待されております。
とりあえず、2月、3月の2か月間は、現場で介護の仕事をさせていただくことにしました。まずは、施設の現状を理解しなければなりません。それには、離れたところから眺めているよりも、中に飛び込むほうが手っ取り早い。
とはいえ、特養での介護は10年ぶり。加えて、「あの時、君は若かった~♪」。当時、35歳だった身体は45歳に。筋力、体力の衰えはさほど感じませんが、回復力が遅くなった。疲れが取れにくくなったのは、ここ数年、実感するところです。
ですが、自分で選んだ道。泣き言は言えません。
10年ぶりのバリバリ介護が始まりました。どの施設にもいえることですが、特養入居者の重度化は進んでいます。新しく入居する方は要介護3以上だし、今は看取りをするのが当然のようになっていますから、介護職には、高い知識と技術の他に、強い精神力が求められます。
当施設は、入居者80名、ショートステイ12名、計92名の利用者様がいらっしゃいます。この方たちが、1日三食とおやつを召し上がり、1日6回以上の排せつ介助があり、週2回以上の入浴をします。三大介護だけ取ってみても、そのハードさは想像がつきます。スピード重視の介護は時代遅れですが、スピードがなければ、到底間に合いません。以前、特養でリーダー職をしていた頃、「特養の職員たるもの、素早く、優しくだ!」などと指導していたことを、久しぶりに思い出しました。
ただ、どんなにハードであっても、利用者様を92名の中の1人…つまり、92分の1扱いすることは許されません。戦争が終わって70年。当時、20代、30代だった人たちは、戦中戦後の物のない時代や目まぐるしく変わる高度経済成長の時代を生き抜いてきました。そんな人たちが年を重ね、認知症になったり、介護を要することになりました。苦労は嫌というほどしてきたのです。晩年、優しい人たちに囲まれ、幸せに生きる権利があると思います。だって、この国を豊かにし、今まで支えてきたのは、目の前にいる利用者様たちなのですから。
10年ぶりの特養介護に大慌ての毎日ですが、楽しくやっています。
私「Aさん(利用者)、ベッドに移りますね」
Aさん「えっ?出っ歯が移る?」
「ベッド」「出っ歯」「ベッド」「出っ歯」…
この仕事は、楽しいです。