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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。

3.1本目の矢

 安倍さんが放った三本の矢。経済が潤うことが、国民を幸せにする。それも一理あるでしょう。否定はしません。そして、多くの人がその意味を勘違いした「介護離職者0」。親の介護を理由に仕事を離れなくていいように。

 これではまるで、年を取った親がいることが、子どもにとって足かせになり、迷惑になっているような印象を受けます。年を取ること、長生きすることは迷惑でしょうか。

 経済を潤わせるには、社会に出て働く人間を増やすこと。しかし、一体人間は、なんのために働いているのでしょうか。働くことによる充実感。給与を得ることで充実する生活。そして、長く頑張って働いてきたことで得る退職金。納めてきた年金で、晩年を穏やかに過ごしていく。これは、若い頃から長く頑張ってきたご褒美のようなもの。頑張って生きていけば、将来幸せが待っている。そう思えるから、人は頑張って働くのではないでしょうか。

 若い世代を大事にしていくことはわかります。これからの社会を支えていくわけですから。でも、若い人も必ず年を取り、高齢者と呼ばれるようになる。誰しもがたどり着く道なのです。

 例えば、多くの人が人生の多くの時間を過ごす会社。長く勤めてくれた人を表彰したり、お祝いをしたり、そういう姿を見れば、若い社員達も「この会社は社員を大事にする会社」と感じ、自分も長く勤めて頑張ろう、という気持ちになります。

 これは国レベルで考えても同じこと。今まで頑張って生きてきた人を大事にする。高齢者が敬われ、大事にされる姿を見ることによって、将来への希望を持って働くことができるのです。

 今のように、長生きすることがまるで迷惑なような扱いを受けている高齢者を見て、若い人たちが将来に希望をもって働くでしょうか。逆です。むしろ将来が怖くなり、不安になります。経済が潤うには、国民がお金を使わなければなりません。若い人が結婚しなくなったり、お金を使わず貯金が趣味などと言うようになった理由は、ここにあるような気がします。

 長く生きた人、今まで頑張ってきた人が報われる社会であってほしい。今回放たれた矢によって、施設づくりが整備されるようです。誤解を恐れず言うのならば、施設は収容所ではないのです。

 施設を整備するのであれば、そこで介護する人材をしっかりと育てること。長生きした人生が報われるような介護、サービスを受けられるように、それらを提供する人材を充実させることです。

 これを「3.1本目の矢」として放ってほしいと思います。