山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
W介護の現実と専門職の役割
2014年の日本人の平均寿命は、男性80.50歳、女性86.83歳。ともに過去最高を更新したことが、厚生労働省の調査で分かりました。
これとは別に、「健康寿命」と呼ばれる、健康で日常生活に制限を受けない期間を示すデータでは、男性71.19歳、女性74.21歳となっています。
昔は、結婚が早く、若い頃に子どもを産む人も多かったので、86歳のお母さんのお子さんは、60代半ばの方も多い。もし、65歳の娘だとして、その夫が6歳年上の71歳だとしたら、すでに健康寿命といわれる年齢にかかっており、介護を要する状態になっていてもおかしくないということでもあります。
現実問題として、このような方が増えている印象を受けます。お母様の入居先を探している娘。お母様は80代後半。認知症を発症していて、目が離せない。娘は60代半ば。夫も70歳を過ぎ、要介護認定を受けている。いわゆるW(ダブル)介護。自分を育ててくれた大切なお母様。それでもW介護の現実は厳しく、やむを得ず介護施設への入居を考えます。
ところが、特養やグループホームなどは、なかなか空きがない。高額なホームなら即日入居も可能。ただ、これから先、夫の介護を考えると、外に出て働くことも難しい。収入が増える見込みはない。行き場のない現実に打ちのめされる。
こんな時、私たち介護、福祉の専門職ができることって何でしょうか? 私は、入居施設の管理者として、空きがない状況では何もできない無力さをたびたび感じます。自分にできることは、せめてお話を聴くこと。悩みを聴き、共感すること。そのくらいです。
入居施設に相談に来る方のニーズは、「入居したい」。その一点です。空きがない状況、しかも入居の申し込みをしてくださっている方がたくさんいる状況では、すぐには順番も来ない。「入居したい」と相談に来ている方に対して、私の回答は「できません」です。
ですが、お話が終わった後、相談に来られた方から、「今日は本当に来て良かったです。ありがとうございました」と、来た時とは全く違う明るい表情で言われることがあります。これはおそらく、話を聴いてもらいたい。今おかれているつらい状況に共感してもらいたい。そのような潜在的ニーズだけは満たされたからかもしれません。
根本的な解決にはなりません。だけど、私たちは、困っている人、苦しんでいる人の力になりたい。そう思って、福祉の仕事を選んだのではなかったでしょうか。
相談窓口で、高飛車な態度を取られたり、冷たい対応をされたりして、悲しみに打ちひしがれる人がたくさんいます。藁にもすがる思いで、私たちの所に来てくれる相談者の方たち。事務的な対応、「担当じゃないので」「ご自分で」と言う前に、相手の立場で考え、共感し、自分にできることはないかを考える。ほんの少しでも希望を持ち、その日の夕飯の食卓が明るくなる。それが、私たち福祉の専門職が社会で果たす役割ではないかと思います。