山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
-
介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
令和の人材育成
あくまでも私の印象ですが、私が社会人になった30数年前、職場は人を育てる場ではなく、人が競う場でした。
同期入社の社員と、どちらが先に仕事を覚えるか、上司に認めてもらえるか、出世するか…。それを競う場であり、育ててもらうというより、成長しなければ置いていかれる、使えない社員は会社にいられなくなる…。そう思って、必死に仕事を覚え、先輩や上司に嫌われたらおしまいと、飲みに誘われたら断ることもできませんでした。そんなことが当たり前の時代だったと思います。
令和の社会は変わりました。
労働人口の減少により、人材の育成よりも、人材の確保が大きな課題になりました。確保した人材を辞めさせないようにしなければなりません。昔のように、厳しい指導をすれば、ハラスメントだと訴えられてしまいますし、退職されてしまいます。必然的に、指導が甘くなっていきます。昔だったら「こんなこともできないのか!」と叱責されたことも、「いいよ、いいよ、焦らなくて」と言われる状況になっています。
それはそれでよいのです。昔の指導方法を懐かしむことはあっても、それが正しかったと思うわけではありません。
先日、私の講義を聞いていた「ゆとり世代です」と言う人が、「ぼくたちは、子どもの頃から少子化だと言って、すごく大事にされてきました。でも、甘やかされて育ってきたという自覚はあって、社会に出てからも、厳しい上司みたいな人はいなくて、いいんだけど、いつまでも若いままではないので、このまま40歳、50歳になった自分を想像すると不安です」と言っていました。
私には、社会全体の構造まではわかりません。ただ、福祉の現場で長年教育をしてきて思うのは、福祉というものを職業にした以上は、目指すべき姿は普遍的なものでなくてはならないということです。求められる質を下げてしまっては、世の中に数多いる福祉を必要とする人が、必要な支援を受けられなくなるからです。ですが、その成長の過程は時代に合わせたものにしていかないと、挫折してしまう可能性があります。
場当たり的な指導ではなく、目標を可視化して、プロセスを共有し、どこまでできるようになったか到達点を定期的に確認する。苦手なことや不安なことについては、どうすればできるようになるか寄り添っていく。経験上、そんな指導が必要なのではないかと感じています。
「そこまでやっていられない」と、私たちやその上の世代の人は思うかもしれません。でも、そこは受け入れるしかないと思いますし、目指すべき姿、ゴールは同じであり、プロセスが変わっただけです。それも、ゆとり世代といわれる人たちには何の罪もなく、そういう時代の教育を受けただけのことです。前述した若い人のように、彼らも自分たちの未来に不安を抱えているのです。
人を大事にするという意味では、むしろいまの指導のほうが正しいのかもしれません。
福祉は人を大事にする仕事であるともいえます。人に大事にされてこなかった人が、人を大事にすることができるでしょうか。
昭和、平成を生き抜いてきた私たちだからできる「令和の人材育成」があるはずです。
著書のご案内
-
山口晃弘氏の著書が弊社より発行されています。
テーマは、介護現場の「リーダーシップ」と「人材育成」です。現場の職員から「一緒に働きたい!」と思われる人気者リーダーになるために、役立つ知識、使えるツール、心揺さぶられるエピソードが満載の一冊です。現場のリーダーからも「この本に出会えてよかった」「求められているリーダーについて深く理解できた」「実践にもすぐに役立つ」など、嬉しい感想を頂いています。ぜひ、ご一読ください!
介護リーダー必読!
元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意
定価 本体2,000円(税別)
A5判、218ページ
ISBN978-4-8058-8278-8