山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
苦しい時は、相手も苦しい
空手の選手だった頃、出場する大会のレベルが上がるほど、どの選手と対戦しても力の差はほぼなく、毎回苦しい試合になりました。僅差の判定で試合に負けた時、師範が私に言ってくださった言葉があります。
「苦しい時は、相手も苦しいんだよ」
実力が拮抗しているほど、気持ちの勝負になります。一瞬の気のゆるみや、苦しくてあきらめたほうが負けるのです。「苦しい時は、相手も苦しい」、そのとおりです。「相手も苦しいんだ! だからあきらめるな!」という意味だったのだと思います。
この言葉、いまでもよく思い出します。しかし、当時のように、対戦相手に勝ちたくて思い出すのではありません。
現場で介護をしている頃、認知症のご利用者が混乱していて、夜遅くに「家に帰らなきゃ!」と施設から出て行こうと興奮していることがありました。丁寧に説明するのですが、聞き入れてもらえません。こんな時、内心「どうしてわかってくれないんだ」と、いら立ちを感じることもありました。
でも、そんな時に思い出すのが、あの言葉でした。
「苦しい時は、相手も苦しい」
そうなんです。ご利用者の「家に帰らなきゃ!」という気持ちは、ご本人の中では切実な思いなのです。「そうだよな。きっと苦しいんだよな」そう思うと、少しでも苦しさ、不安を取り除いてあげたくて、優しく接することができるのでした。
お客様との関係でも、一方的に不満をぶつけてこられることがあります。あきらかに誤解している時や、こちらとしても言いたいことはたくさんある時もあります。でも、きっとお客様も苦しい。ずっと我慢して、耐えかねて、言いに来てくれたのかもしれない。お客様に満足していただけるなら、そういう気持ちにさせてしまったことを、お詫びしたっていいじゃないか。そう思えるのでした。
職員との関係でも、管理者である私に、人員不足の状況について、不満をぶつけてくる職員もいます。介護人材の不足は、業界全体の問題。もっと大変な状況の施設はいくらでもあるし、人材確保については、最優先課題として努力しています。「こんなに現場のことを思って、精一杯努力しているのに…」。そんな悔しい思いでいっぱいになることもあります。
だけど、現場が苦しいこともわかります。人材確保が難しいことも理解している。それでも、私にぶつけることしかできない。そう思えば、気持ちを受け止めて、さらにできることはないか、考えてみよう。そう思います。
「苦しい時は、相手も苦しいんだよ」
この師範の教えが、あれから20年以上経ったいまでも、私の中で生き続けています。
著書のご案内
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山口晃弘氏の著書が弊社より発行されています。
テーマは、介護現場の「リーダーシップ」と「人材育成」です。現場の職員から「一緒に働きたい!」と思われる人気者リーダーになるために、役立つ知識、使えるツール、心揺さぶられるエピソードが満載の一冊です。現場のリーダーからも「この本に出会えてよかった」「求められているリーダーについて深く理解できた」「実践にもすぐに役立つ」など、嬉しい感想を頂いています。ぜひ、ご一読ください!
介護リーダー必読!
元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意
定価 本体2,000円(税別)
A5判、218ページ
ISBN978-4-8058-8278-8