和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
手に取って味わえるように
2022年10月22日付中日新聞夕刊によると、三重県内で八店舗展開する衣料品店が、介護施設や障がいの就労支援施設の利用者・入居者向けに「貸し切り営業」を始めているそうです。
店内は、普段よりも車いすで通行しやすいように通路の幅を少し広げ、休憩用の椅子を設置。通常の三倍の定員さんを配置してお迎えしているそうです。
貸し切り営業を始めたきっかけは、たびたび来店し慌ただしく大量の肌着や洋服などを買って帰る常連客が、高齢者介護施設の職員さんだということがわかり、その方が「買ったもののサイズやデザインが入居者の希望に合わないのが悩みだ」との声を聴いたことがきっかけだそうです。
衣料品店の代表者は「他のお客さんを気にすることなく自分で手に取って商品を味わって欲しいと思った」とのことですが、僕はこの言葉が響きました。
自分で手に取って商品を味わって欲しい!
なんて素晴らしい言葉・思考でしょう。
高齢者介護の世界は、本人に成り代わってしてあげる「代行」がまかり通っていて、そこに疑問さえもたないようになってしまっている現状があり、「本人が目にすることも手にすることもなく職員が代行して購入し手に入れる」のが当たり前になりがちです。
現場では、それを少しでも「ふつう」に戻すために、買いに外へ出かける支援まではできなくとも、せめて自分で手にとって選んでもらいたいと知恵を凝らし、衣料品店等に施設に来てもらって出張販売してもらっているところもあります。
でも、この衣料品店の代表は、そうではなくて「時間貸し切りにして利用しやすいようにする」という道を提案したところが素晴らしいと思いましたし、そもそも時代に逆らうかのように「セルフ」ではなく「職員がお客さんと関わりをもって買い物できる衣料品店」を目指してきたそうですから、この先、貸し切りではなく他のお客さんと混じって買い物し合う「ふつうの買い物」を行えるようにするにはどうしたら良できるかを思案するんじゃないでしょうか。そう思わせてくれます。
家族やお友達なんかも一緒に参加して、あぁ~でもない・こぉ~でもないなんて愉しそうですよね。まさにショッピング!
30年ほど前、かなり大勢の車いす利用者を含む障がいのある方々がディズニーランドで過ごせるように運営会社を訪問しご相談したことがありますが、どんな方でもディズニーランドを安全に満喫していただけるようにするため、表向きわからないように裏で対応する人を増やして備えますって言っていましたもんね。
普通に営業しているお店に行って「どんな色の服を買うか、どんなデザインの服を買うか、たくさん置いてあるものの中から選び、それを目にして手で触れて決める」というのは、要介護状態になるまでは「ふつうのこと」で、その普通に当たり前の行為を自力でできなくなった方々が、その姿を取り戻せるように支援するのが僕らの専門性であり、その姿を取り戻しやすいように環境を整えるのも僕らの専門性。
この商店の代表は、特別なことを目指しているわけではなく、高齢者施設の方々に普通にこのお店に買い物に来られるお客さんと同じようにさせてやりたいと思っただけのところがいいですよね。
ともすると「では、施設に多量の衣類をもって行きますから出張店舗をひらきましょう」となりがちですから。
いやぁ~、こういう情報に触れるとウキウキ愉しくなってきまぁ~す。
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あれがいい、これがいい、こっちはどう
ショッピングっていいですよね