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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

人権への挑戦と自問の連続

 福祉系大学の学生さんたちとリモートで「Q&A講義」をさせていただきました。

 事前に寄せられた質問は「32テーマ」でしたが、リモートとはいえせっかく顔を合わせたのですから、いただいた質問でも良いので学生に挙手していただき、生で質問をしていただくことにしました。
学生さんたちの「Q」は、個別の事例ではなく「そもそものこと」への質問が多く格別に好きです。

 ただ、時間の制約上、たくさんの質問が残ってしまいました。そこで得意の「ブログでお応え」とさせていただくことにします。
30以上もあり、いつまでかかるかわからないけど答えていきますね。

 Q:昔の介護施設は施錠や隔離があったと学びましたが、和田さんにとって、最も衝撃的な隔離や人権侵害の場面とはどのようなものでしたか?

 今でも、昼夜くまなく施錠して建屋から出られなくしている介護施設は多数あることでしょう。

 僕は自分の著書(『大逆転の痴呆ケア』中央法規出版、2003年)の中で「施錠しない施錠肯定派」だと自分を評しました。

 僕は「施錠して建屋に閉じ込める=必ずしも悪」ではなく「施錠策=我が国の到達点」だと捉えており、その中で、「施錠して建屋に閉じ込めるのは人権侵害。でも、施錠して建屋に閉じ込めざるを得ない状況にあるのも事実で、他者を責めることなく、自分は可能な限り施錠しない支援策を追求しよう」と考えて実践してきました。
 でも現実的には、僕自身も人権侵害に数々手を染めているひとりなので、何とも答えにくい質問ですが、それを前置きさせていただいたうえでお応えさせていただきます。

 この仕事に就いて二年目(34年前)に受けた研修先の介護施設でのことです。
認知症の状態にあると言われていた女性入居者がサークルベッド(四方に囲いの付いたベッド)に入れられていました。

 それに「何で囲い付きベッドに入れられているんやろか」という疑問は感じましたが、驚きはしませんでした。ただ職員さんに「あの方とお話をしてもいいですか」と尋ねたとき、「気をつけてくださいね」と返ってきたときは、「えーっ、猛獣扱い?」って思いましたし、その言葉には驚きました。

 しばらく黙ったまま、その方の傍らに座らせていただき、ちょびっとだけかかわらせていただいた結果、その方と一緒に「夕焼け小焼けの歌」を歌うことができましたので、「猛獣が夕焼け小焼けを歌うやろか」との疑念はもちましたね。

 同時に、それがNHKで報道されたほど国の鳴り物入りで実施された全国規模の認知症介護研修(当時は痴呆性老人への介護技術研修でしたが)の実習先だったことに衝撃を受けました。

 この業界で仕事をしていく中で、そもそも「介護施設は人権侵害だらけ」だと思っているので、多くの出来事に対して「あり得る」と思ってしまうし、そうしたことに疑問や怒りや嘆きはあっても、驚きや衝撃は、ほぼないですね。

 介護事業は人権に対しては限界点が低いと言わざるを得ません。そもそも本人の意思とは無関係に入居させられ、通所させられますからね。また「家に帰りたい」って人として普通のことを言っている人に対して、あの手この手の知恵を絞って帰られないようにするんですから。「俺は一体何をしてるんやろ」って自問だらけですよ。

 あともうひとつ衝撃を受けたことがありました。20年くらい前になるのかな。
 自分が従事するグループホームで入居者と一緒にテレビを見ていたら、認知症の方を入居させている介護施設で虐待が起こっていることが報道されていました。
 そこでは、犬小屋に認知症の方が入れられていたとのことで、レポーターがその介護施設の経営者に問いただすシーンだったのですが、経営者曰く「入れてなんかいません。犬小屋を置いていたら自分で入ったんです」と。これは衝撃的でしたね。

 また違う角度からの話ですが、認知症の状態にあるAさんへの支援で「本人の気持ちを大事にしたい」と「いつでも好きな時に喫煙できるようにタバコとライターを本人持ちにしていた介護施設」で、それが元で火災を起こしてしまった事案がありました。

 僕はそれを聞いたときに、タバコを本人の手元に置くことは問題ないとしても、ライター(火器)を本人持ちにしていたことに、この介護施設関係者は、「本人の気持ちを大事に」なんて人権を重んじている風に聞こえる言い方をしているものの、やっていることは人権を軽んじているなぁと感じてしまいました。

 つまり認知症という状態にあれば「火を始末する」という行為が難しくなってもおかしくなく、火災等他者を巻き込んだ生命にかかわる重大なリスクが高まるのに、それを知ってか知らずか、火の不始末につながりかねない火器を渡しているというのは、「人が生きること」を軽んじていると感じたからです。

 同じようなことに、「本人に聞くと素うどんが食べたいと言われたので素うどんを一緒につくって食べてもらった」という介護施設関係者の話を聞きましたが、それも「本人の意思を尊重している・主体性を尊重している」という御旗を立てているかのように見えますが、専門職として「本人にとって」というベクトルを全く利かせていないことに同じことを感じましたね。

 僕も、本人が望む素うどんを一緒に作っていましたが、素うどんだけの食にならないよう、テーブルの上に数種類の食物を並べるように支援していましたからね。
 つまり「何を食べますか」と問うた時に、本人は素うどんしか描けなかったとしても、いざ食べる段になって目の前にあれこれ並べられ、しかも美味しそうに見えたら、誰だって手を出したくなるだろうなってことは、簡単に創造できますもんね。

 とかく人権といったテーマでは、「施錠や隔離」などわかりやすいことに目が向きがちですが、一見もっともらしいと思えることも、よく考えると「それって」と思えることがいっぱいあるし、自分の実践の中にも多々あるんです。

 僕らの仕事はあらゆることが「人権への挑戦」であり「人権を前に挫折し自分を責める自分との闘い」でもありますが、大事なことは人権思想をもつこと・忘れないことで、学生さんのような質問を投げかけてくる人が介護現場にたくさん必要だと思います。
 ぜひ、飛び込んできてください。

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 ソフトクリーム・アイスクリームが大好きな僕は、大敵ともいえる糖尿病になってからも口にする食べ物で、特に「ご当地もの」は欠かさず食べてしまいます。しかも、北海道のソフトクリームは濃厚で美味しい! と脳が思い込んでいるので、見つけようと行動して食べてしまいます。
 また、大好物のひとつが「キノコ」で、今回も「キノコを謳った飲食店」を目にしたので寄ってきました。
 キノコ汁、きのこ飯、きのこ天ぷらなどキノコ三昧の食事のあと目に入ったのがソフトクリーム。しかもしいたけを揚げたものをチップとしてまぶしてある「しいたけソフト」(写真)
 おそらく日本で唯一のソフトクリームだと思いますので、土産話に食べてみてはいかがでしょうか。

 各地の道路標識で「鹿」はみかけますが、「キツネ」は北海道だけではないでしょうかね。可愛い標識です。
 今回、実物は見かけませんでしたが、結構、チョロチョロしていますからね。轢かないようにしましょう。