和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
生人の言葉
先日「一人で食事をするときは、人の声が聞こえるだけでおいしく感じ、食べる量も増えることがわかったと名古屋大学のグループが発表した」と、新聞で報道(中日新聞9月20日付)されていました。
モニターを使った実験では、映像に人が映っているか否かに関係なく人の声を聞かせたとき「おいしさ」の得点が高く、食べる量も増えたようですが、人工的に合成した音声では、その効果は認められなかったとのことです。やっぱり「なまのひと」ってすごいんですね。
このグループの代表者(名古屋大学教授(認知科学))は「人は昔から、家族や仲間と一緒に食事をするのが基本となっていた。洞窟などで暗くて顔が見えない状態でも、人の声が聞こえる状態で食べており、その習性が残っているのではないか」と。
理屈はどうあれ実感として、他人とワイワイ食事しているとき「みんなと一緒に食べるとうまいなぁ」と言う言葉が聞こえるし、「あー食べ過ぎた」という言葉に代表されるように、いつもの食事よりも量が増えるように思います。
この研究結果を介護保険事業で考えると、デイサービスやグループホームなど他人と一緒に食事を摂る事業は、無言状態の食事で栄養価は摂り込めても、より「おいしさを感じ」て「食事量を増やす」には言葉が聞こえることが大事だということで、その大事な要素が詰まっているのが介護保険事業ということになりますが、「シーン」と静まり返った食事の場面にしてはもったいないということでもあります。
昔、あるグループホームを訪ねた医療職の方が「著名な代表者から認知症(当時は痴呆症)の方は静かな環境でないと食事が進まないのよと言われたけど、和田さんのところとはワイワイガヤガヤを創り出しているでしょ。真逆なんだけど、どっちなの」と問い詰められたことがありました。
僕は理屈はともあれ、食事場面で大事にしていることは「ひとつのテーブルを囲んで食べること」と「話すこと」だと考え、そこに別の要素も加えて実践してきましたが、その基は「火を囲んで食べ合う大昔の人の暮らしの様」で、それが介護保険制度のグループホームの正式名称になっている「共同生活介護」の一環だと考えているからです(介護とは人と人の関係性だと捉えています)。
この研究結果でいえば、自宅で過ごすことを支援する訪問介護でも「食事量を増やすことを目的に訪問して食事の場面で話す」というケアプラ(介護計画)が成立するということですから画期的です。
どうしても食事介助等で職員さんが話せる状況にないのならば、ラジオを流すのも効果的なようです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う予防策で、食卓の上はアクリル板で個別に仕切り声を出さずに静かに食べるなど、人と人の関係性をぶった切っている状況ではありますが、ラジオを流すのは一手かもです。災害発生時の予防策にもなりますしね。
テレビも良いようですが、テレビは画像が食事を邪魔するし、職員さんもつい見入ってしまい、気を利用者・入居者からそらしてしまいかねず、リスクが高まりますからね。
こうした「ひとや人の暮らしの中で大切な要素」に関する研究結果は、僕の「エビデンスなき実践」を後押ししてくれるので励みになります。
追伸
今月中旬、東京から名古屋に戻ってから右腕の傷みが激しくなりパソコン作業が億劫に。
受診すると上腕二頭筋に炎症が起こっており、その影響であちこちに痛みがきているとか。
タッチタイピングっていうのかな、両手を使って美しくパソコンを打てない僕は、右手への負荷が大きい打ち方なのでしょうがないのですが「積みあげ」とはまさにこのことで、少しづつの負荷も溜まるとこうなってしまう典型です。
逆に名古屋に戻って積み上げている「歩数」の効果のほども気になります。こっちは腕に炎症があっても平気ですからね。その成果は来月中旬には判明します。
写真
山形の友から贈ってもらった一枚ですが、ガンで終末期を迎え入院してしまった友に会いたくても会えない切なさがダブって泣けました。