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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

下がったときに思う


 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組の収録は、もう六年も前のことです。

 それより数年前から毎年一度ディレクターが会いに来てくださり「和田さん、今は何をされていますか」と尋ねられ、「○△です」と答えると、「現場に入って認知症の方の直接支援に当たっていない和田さんを撮ってもねェ。また来ます」が続いていました。

 六年前「ディレクターが変わったので、ご挨拶がてら近況を聞かせていただきに行きます」という連絡が入り、名古屋に来られました(それが、注文をまちがえる料理店を一緒にやっている小国さんです)。

 このときも「どうしていますか」と同じように聞かれたので「この四月からここ(新しい会社の介護事業所)を立ち上げるから、三か月くらい現場にかかわろうと思ってんねん」と答えると「では撮影に入りましょう」と即決され、撮影が始まりました。

 その番組で紹介されたのが写真のすみえさんです。
 番組を見られた方は覚えていらっしゃるかと思いますが、僕らが海を見に出かける取り組みをした時に、ケガをさせてしまった方です。

 入居されてからのすみえさんは、写真のように庭の策を乗り越えるばかりか、窓を乗り越えてでも外に出ていかれましたし、貯水槽の低床を這ってくぐり抜けて敷地外に出られるなど、1日40~50回それを繰り返される状態でした。

 職員とも他の利用者とも交わろうとはしませんでしたし、感情の起伏が激しく、「そういう方はグループホームで対応すべきではない」と言われて退職した方がいるほど、激しい状態の方でした。

 僕も他の職員も一生懸命応じました。
 あの手この手模索しながら「どうしたら施設内に滞在できるか」、彼女にとって滞在できる意味や目的探しを試みました。

 まずは他人とかかわらなくても行える掃除から促してみました。
 掃除に対しては調理に比べて関心を示すことがわかり、廊下など共有空間、自室と、タイミングを見計らい、やり方を変え、促しました。
 意思疎通が難しい方なので、まったく耳を傾けてさえくれませんでしたし、掃除に関心を寄せてもらえませんでしたが、徐々に写真のような姿が見られるようになりました。


 合わせて、目指す姿は「他人と関わる姿」でしたが、同居人とめさん(仮名 入居者)ならかかわりをもてるのではないかと考え、いろいろなシーンを設定し試みました。


 さらなる目指す姿は「他の入居者と一緒に何かを取り組む姿」で、これはかなり苦労しましたが、これも写真のような姿を実現できました。

※下の写真の日付は、設定間違いのためです


 この後、海を見に出かけた際にケガをさせてしまい、こうした支援策も振り出しに戻ってしまいました。

 その後、ケガの回復と共に僕も再チャレンジして、再びこのような姿まで復活するのですが、その後は、認知症の原因となっている疾患の進行もあり、道端で排せつ行為をする、近所の家にあるモノを持ち帰る、食べながら外に出て行き食器をそこらここらに投げ込んでくるなど、反社会的な行為が出現する状態になりました。

 ただそれでも、まだ歩く力は残っていましたし、僕らも家族も「外に出ること」への支援を諦めませんでしたので、ご近所からは「歩きまわる人」として認知され、ご迷惑をかけてはいましたが、見守ってもいただいていました。

 その後さらに状態は変わり、パーキンソン様の歩行状態になり、「いつ・どこで転倒するかわからない+受け身ができない」「職員が付き添えても救いきれない」「痛い目に遭わせたくない、身体に傷をつけさせてやりたくない」ということで、やむなく玄関を施錠して自由に外に出られないようにしました。
 ご近所の方から「あの方は?」とご心配をいただくほど、地域社会を歩く姿を支援できなくなりました。

 その後、介護施設内でも同様のことが起こりはじめたので、リスクの高い「椅子からの立ち上り動作のある洋式生活」を奪って、和式生活を強要しました。
 下の写真はそのために、床からの立ち上がり動作や、立ち上がろうとするかどうかなどの見極めをしている時の様子です。


 こうして大事にすべき優先順位を状態に応じて変化させながら支援してきていますが「本当にこれで良かったのか・いいのかどうか」は自問しかありません。

 今支援に当たってくださっている職員さんは、塀や窓を乗り越えてでも外に出て行かれようとした超活動的なすみえさんを知らない人たちですが、すみえさんに限らずあちこちで聞くのは「動けなくなったとき、声が出なくなったとき、その当時は大変だと感じていたが、当時の○○さんに戻ってもらいたい」と口にする介護職員の声で、僕の知る限り多いように思う。

 介護職は、「人間の老いや病気の進行」とまともに関わる職業だけに、自分にとって手間暇かかろうが・どうあろうが「元気な姿」を求めるんでしょうかね。
 僕もそのうちの一人ですが、下がった時にこそ「介護職として目指すべき姿」が見えてくるんでしょうかね。

追伸

 前回の記事に対して久しぶりにコメントをいただきましたので、コメントにお応えする記事を書いていましたが、間に合いませんでした。
 この記事は先週分になりますので、近々コメントにお応えさせていただく記事を今週分としてアップさせていただきます。お待ちください。

■ご案内
2月27日(水)19:00~20:30 中央法規出版ホールにて
和田行男さんによるトークイベントを開催します。

当日は、和田さんが読者の皆さんの悩みや疑問に直接お答えします。
介護現場の疑問や悩み、介護への思いを和田さんにぶつけてみませんか。

イベントについての詳細は以下をご覧ください。
https://www.facebook.com/ohayo21