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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

めだかは学校


 ひと月前くらいからメダカを飼い始めました。

 そのために「水槽とろ過装置と餌」を買いにホームセンター観賞魚コーナーへ行きましたが、改めてコーナーを見渡すと、メダカの専用コーナーが設けられ商品がびっしり。餌も「メダカの餌」という専用の餌が売っており「時代に追いついていない自分」を感じさせられました。

 餌を与え、メダカを眺めているだけのプチ飼主としてスタート。連れ合いは「絶対に飼わない」なんて言っていたのですが、僕以上に関心をもって水槽を眺め・世話をしてくれています。

 うちのベランダは日当たりが良く、買ってきた「ガラスの水槽」は瞬く間に苔まみれになり、手間暇かかるので「アルミの桶」に移し替えた、ある日のことです。

 「来て、来て、メダカの赤ちゃんがいる!」

 連れ合いの大きな声に誘われて桶を覗くと、小さな透明の目ん玉だけがキラキラ光る稚魚が3匹いるじゃないですか。

 「ほんまや!」

 そのままでは大人メダカに食われてしまうと直感的に思い、元のガラス水槽に水道水を入れてカルキ抜きをし、急きょエアポンプを準備し、稚魚と卵が付着しているであろう水草も同時に移動させましたが、ここら辺りから「素人丸出し飼主」が露呈してきます。

 というのも「メダカの飼い方」なるものを連れ合いがネット検索すると、稚魚は特にですが「環境変化に弱い」ので、元の水温と同じ水温にして移すことが大事だと書いてあったからです。

 「あちゃぁ」

 婆さん支援で常に「環境」のことを語っている僕としては情けない限りで、「環境不適応を起こして死んでしまったらどうしよう」と思い詰めましたが、朝の3匹が午後には5匹になり、夕方には9匹と1匹も死ぬことなく順調に孵化してホッとしました。

 餌もそうで、大人のメダカと同じものを与えていましたがこれも間違いで、大人用をすりつぶして与えるか、稚魚用の餌として市販されているモノを与えないと、稚魚は食べれないと書いてありました。
 これも、いつも「能力に応じて」と語っている僕としては情けない限りで、稚魚も成魚も「メダカ」としか見ていなかったってことです。

 また、メダカをすくう時に網を使いましたが、網ですくうと身体に傷をつけるようで、ガラス瓶のようなもので水ごとすくって移すようにと書かれてありました。
 婆さんに関わるとき「相手に傷をつけてしまわないか」を考えて行動するように心がけている僕としては、これまた情けない限りで、網ですくわれるメダカの側から考えていなかったってことです。

 10匹の大人メダカが、ひと月の間に50匹以上孵化し「メダカの学校」状態です。

 稚魚は時に時に(日に日によりも早く)小さく透明だった身体は透明度が下がり体長も大きくなっていますが、それに合わせて我が家の「メダカ騒動」も派手になっています。

 そんなこんな先日、大人メダカが1匹死んでしまったようで、連れ合いが敢えてちびっこに「ゴミ箱に捨てる?」って投げかけると、ちびっこ軍団の中で一番生き物が好きで世話をする二番目が、「埋めてきてあげる」と言って、雨の中びしょびしょになって庭に穴を掘り埋葬していたそうです。少なくともこの先数十回、同じように埋葬してくれるのでしょうかね。

 メダカを飼う・メダカが死ぬということで、僕のダメさを思い知らせてくれましたし、ちびっこたちの成長階段の段数を増やしてくれているように思えました。

 僕が子どもの頃のように、家から歩いて行けるところに川があって、その川に行けば、メダカ、フナ、ナマズ、ウナギ、ゲンゴロウ、ミズカマキリ、タガメ、ドジョウ、カメ、トンボ、ヤゴ、タニシ、カエル、ザリガニ、ホタル、ヘビなど多様な生物に出くわし、「どうやったら捕まえられるか・どうやったら食えるか」で知恵をめぐらし試行錯誤できた時代には後戻りできないかもしれませんが、言葉を発しない小さな生き物との同居・暮らしは、人間である僕らに「何か」を補給してくれているように思えます。

 メダカの学校は、僕らにとって「メダカは学校」でした。

追伸

 2017年の「認知症による行方不明者数」が公表されました。昨年1年間で1万5683人だったそうです。
 僕の知り合いのご親戚も、もうかれこれ7年~88年、どこでどうされているのかわからないままの状況です。
 移動能力のある認知症の状態にある人の特徴は、「自分の意思を行動に移すことができてやり遂げられない」ことにあり、それが「いつ・どこで・どんな風に起こるかわからない」ことにあるだけに、まだまだ増え続けるし、それへの対応策を急がねばなりませんが、決定打はあるのでしょうかね。

写真

 メダカのお話にちなんで金魚の写真を掲載しましたが、実はこれ和菓子。
 京都の老舗和菓子屋東京店の和菓子職人が制作されたそうですが、凄いですね。ちなみにこのアジサイの花も和菓子。
 どの道の職人さんに出会っても思うのですが、その道の鍛錬された技に頭が下がり、いかに僕の鍛錬が足りないかを痛感させられます。


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