和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
交通権
かつて高度経済成長で、日本人の暮らし方が大きく変わってきたといわれています。
住宅も典型的なひとつで、いわゆる「団地」があちこちに建てられました。いわば現代でいう「マンション」ですかね。
今の人にとっては「狭ぁ」って思う2LDKですが、お部屋ふた間にリビング・ダイニング・キッチンのある憧れの「マイホーム」だったようです。
その団地も古くなり今では建て替えも進められていますが、まだ建て替え前の団地に住んでいる方々もたくさんいますし、その方々が高齢化して、いろいろな課題があるのでしょうが、そのひとつに「移動」があります。
というのも昔の団地は、今と違って高層ではなく四階五階建なのですが、エレベータがついていなかったのです。そこに高齢化ですから、課題になるのも必然で、建て替えまではいかなくともエレベータの後付け策もとられていますが全部ではなく、階段しかない状況下に取り残されている人たちもいます。
とめさん(仮名)はその団地に住んでいる方で、子と同居していますが子もそれなりの年齢であり、身体も万全な方ではありません。
退院後は介護保険の通所介護を使うことが望ましいと考えた病院の相談員ですが、階段昇降・「移動」に問題があるということで、どこも受けてくれなかったようです。
そこで「うちの出番」ということになり、とめさんを小規模多機能型居宅介護で支援することになったのですが、うちになったからといって階段昇降がなくなるわけではありません。
そこで「階段昇降機の出番」と考え当たりましたが、生活保護受給者ということで「昇降機の費用が捻出できない」とのことで、「住居を変えるか」「施設に入所するか」の話になるようで、子の「このままここで」の願いに反し簡単にはいきません。
かといって僕ら事業者が「移乗機器はこちらで用意します」とも簡単には言えない金額で、ひょっとしたらとめさんで需要がなくなり「持ち腐れ」になるとも限りません。
こういう時にこそ出番は「行政」「行政関係」で、こうした場合に備えて「移乗機の貸出制度」があれば、閉じこもらせなくて済みます。
かつて行政施策によって国民生活向上に向けて建てられた「団地」であればこそ、行政施策によって「最期まで向上」に向けて策を打ち続けてほしいものです。
こうした場合、階段昇降をネックに断った事業者がとやかく言われ、受けたうちのような事業者が讃えられがちですが、そもそものネックは「健康で文化的な生活の保障に支障をきたしている策の不十分さ」にあり、それは行政関係ならば容易く解決しうる範疇だと思うんです。
若いころに携わらせてもらった障害者の列車の旅の運動で知り合った日比野正巳さん(長崎純心大学教授)は、暮らしの基本は「衣・食・住・交」で「交通権」という考え方を僕に教えてくださいましたが、まさに「最低限の文化的な生活」に「交通・移動」は欠かせないもので、このことは正にとめさんの交通権の問題であり、今の日本にあっては施策として成さねばならないことなのではないでしょうか。
この仕事に就いたばかりの時、山の中の山の車では入りきれない小高い場所に住む方の入浴サービスのお迎えで、先輩がおんぶして下ろした光景を見たときにも「交通権」を思い浮かべましたが、この仕事に就いてこういう場面に出くわすたびに、日本は「先進国家」といわれていいんだろうかという疑問がわいてきますが、どうなんでしょうかね。
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この春に開通したという新名神高速道路(高槻以西)のサービスエリアで見つけたトイレットペーパーですが、マニア水煙ものですよね。
これでケツを拭くのはおこがましいですが、嫌なことがあったらこれを「解いて・読んで・巻きなおす」ってことをやると吹っ飛びそうでしょ。