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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

見違える姿の源


 昨年6月と9月に取り組んだ注文をまちがえる料理店の実行委員会が12月に解散し、改めて一般社団法人化して初めてオフィシャルにサポートする「注文をまちがえる料理店atとらや工房」が昨日取り組まれました。

 とらや工房は、創業500年の「株式会社虎屋」が御殿場市につくった「特別な場」とも言うべき処で、株式会社虎玄が運営する和菓子処ですが、その10周年を記念して取り組まれたものでした。

 休日を活用して、御殿場市の全面的な協力のもと開催されたこの取り組みには、239名もの来場者があり、盛況のうちに幕を閉じました。

 10時から16時までの開店で、工房が3つのセクションに配置され、ひとつは「注文をまちがえる料理店atとらや工房」(以下「注文」)、ひとつは認知症サポーター養成講座、ひとつは通常営業日より限定されたメニューではありましたが来場して和菓子を食すことができるフロアでした。

 僕ら一般社団法人注文をまちがえる料理店がサポートした「注文」で働いてくださった認知症の状態にある方(以下「婆さん」)は、御殿場市内の介護事業所利用者・入居者12名)で事業所スタッフ(以下「スタッフ」)のサポートを受けて、僕から見てステキな働きぶりでした。

 オペレーションは10時から16時を6クールの総入れ替え制とし、1クール45分の飲食時間+入れ替え時間15分で設定。1クール平均20名のお客さんに対して4名の方で接客とし、4名の方々が2クールを担当しました。

 僕はその中で、仲間と二人で言わば「司令塔」の役回りを担わせていただきましたが、この取り組みで改めて思ったのは、介護事業所スタッフの「先回り=介護業の弊害」です。

 一番最後のクールで「スタッフ」の皆さんにお願いして、ほぼ「スタッフ」は婆さんに関わらないように離れていただきましたが、「スタッフ」の皆さん方も驚くほど工房の職員さんとの連係で、自主的・主体的に接客の行動をとられていました。

 つまり、その能力がいかんなく発揮されたと言う事であり、その環境を築けたということですが、これこそサポート役=支援者としての機能が果たせたということの証ともいえます。

 とても消極的だった方が非常に積極的に行動される姿になる、積極的な人がより積極的になる姿、手の震えがありお盆をもって運ぶことを心配されていた方の手が震えることなく約2時間動けた姿、互いに声をかけあう姿、手を引き合ってひとつの事を成そうとする姿など、僕は普段の姿を見ていないのでその違いを語ることはできませんが、普段接している「スタッフ」の方から「すごい!」とか「できた!」とか「よく話している」といった声を聞く限り、介護職である「スタッフ」が、介護職から脱皮して「支援の専門職」を自覚できたということではないでしょうか。

 生意気なことを書いて怒られるかもしれませんが、こうした姿は、婆さんたちが瞬間的に劇的に変われるはずはないことを是とすれば、介護事業所で介護職の皆さんに封じ込められた能力を開花できる環境を生み出せたからであり、その環境は「スタッフ」が変われたからでしょう(細かいこと言ってすみませんでした)。

 認知症という状態は、本人だけで起こる状態ではなく、周りとの関係で起こることが多々あり、周りこそ「環境」であり、環境のひとつに「スタッフ」があるということです。

 それにしても御殿場市の行政・介護事業者(所)、キャラバンメイトの皆さんが、「とらや工房」と「注文」を真ん中にして連帯されていたことは感動モノでした。

 帯とは「へた(植物の茎と果実を接続する部分)」とも読むようですが、注文をまちがえる料理店が「へた」になれたらステキですよね。

 ちなみに可笑しかったのは、婆さんたちが間違える場面はほぼなかったように思いますが、とらや工房の職員さんたちが注文されたメニューを間違えるハプニングで、「注文をまちがえてつくってしまったとらや工房」だったことです。

 環境が変わると「普段通り」にはいかないことがあるんですよね、いいもわるいも。

 関係者の皆さん、お疲れさまでした。