和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
世界的介護人材不足
先日沖縄を訪問した際に、沖縄の高校や専門学校の方々とお話をする機会を得ましたが、沖縄でも「介護」の有効求人倍率は3倍を超える状況のようで、ひと昔前では考えられない事態を迎えていると訴えていました。
もちろん、僕の所属法人の主戦場である東京都や愛知県の6倍からみれば「まだ3倍」となるのでしょうが、毎年沖縄に行かせていただいて介護事業者や教師等と話してきた僕の実感としては「我が国の危機」くらいの状況であり、大変なことだと改めて思いました。
先般、NHK海外向け番組「グローバル・アジェンダ」に出演させていただいた時のお題が「介護人材」で、出演者はドイツの日本でいう厚生官僚、中国人民大学幹部、ILOの元研究者たちでしたが、日本が「ロボットだ!」「技能実習の緩和でほぼ移民政策じゃないのか!」って思えることをやっている今、次のようなことを言っていました。
ドイツでも人材不足は深刻だが、質の確保のため介護での移民での対応は考えていない、また、介護は人に向き合う仕事、文化の事もあり、様々に改革をして自給できるようにするべきだと考えていると仰っていました。
ILOの元研究者は、2050年には世界中(北半球)で高齢社会に突入して介護人材が不足する。介護人材は尊い人材。介護従事者の待遇改善を図って自国での充足策をとるべきだと一貫して訴えていました。
中国では2050年になると65歳以上人口が3億5000万人になる。すでに農村部から都市部へ国内移民が起きているが、世界中の仕組みを研究して自国に合う「支える仕組み作り」を模索中だと仰っていました。
また、日本のロボット技術紹介コーナーでは、ドイツの人も元ILOの人も「要介護状態の人にロボットを与えておけばよいというような考えは人権問題だ」とピシャリ。
僕も「自給が大事」「ロボット委ねは人権問題」だと考えている一人なので、非常に共感できたし、沖縄の有効求人倍率3倍を「我が国の危機だ」と捉えるのはグローバルな捉え方ともいえ、すでに公金投入して施設をつくったけど人が集まらず開業できない介護施設がある、公金投入でつくった非課税施設のあおりで同じ介護保険事業で社会に貢献している民間事業者が苦しくなっているなど、パンク状況でもあり、抜本的な対策を講じねば破裂するという認識を改めて深めました。
僕が番組の打ち合わせの時に雑談で、官僚に「介護保険制度を担っている介護職など公務者を公務員にしたら、税金と保険料の公金拠出は今よりいくら増えますか? 保険料はいくらになりますかと質問したら答えが返ってこなかった」という話をしたら、出演者の一人が「よいアイデアだ」と言ってくれましたが、それくらいの覚悟で考えないとインフラである「介護」は維持できないでしょう。
介護はクリエイティブな仕事であり、国民生活になくてはならないインフラであり、非常に社会性の高い仕事であるにもかかわらず、その仕事に就きたいと思う人がこうもいない理由は何かをもっと議論しないと、「待遇」だけで対処していくと国民にとってよくないことにお金を出させる結果を招きかねません。
今までよりもさらに突っ込んだ深い議論・率直な議論が必要な時が来ているのではないでしょうか。
写真
ある高校の「介護福祉科」が「閉科」となり卒業生たちが植樹したものです。その樹の横には「介護福祉科開科」の記念碑がありました(下の写真)
全国各地で起こっている「介護系の学校・学科」の「閉・廃」を大多数の国民は知らないのではないかでしょうか。
また、先生方が「介護への道」を子どもたちに勧めない現実があることも聞きますが、それは先生方の課題ではなく国民が考えなければならないことであり、考える材料を提供すべきではないでしょうか。
この二つ並んだ「記念碑」を見て、哀しんでいる余裕はもうこの国にはないはずです。
追伸
四月に入って、3日名古屋⇒長崎県の離島新上五島町⇒東京⇒福島県郡山・大熊町⇒東京⇒広島県庄原市⇒東京⇒名古屋⇒北海道新ひだか町⇒名古屋⇒神奈川県藤沢市⇒東京⇒ベトナム国ハノイ⇒名古屋⇒沖縄県那覇市周辺⇒名古屋25日までの三週間強、久しぶりの大移動をさせていただきましたが、たくさんの人たちや出来事に出会え、たくさんのことを考えました。
動けば人にあたり、人にあたれば自分が充ち、自分の充ちを人や社会に還す。それができてこそ「人の仕事」なのかもです。
まだ仕事道半ばの僕です。