メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

共同生活介護


 僕がNHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」で取り上げていただいて、もう6年になりました。
 先日、パソコンのデータを整理していたら面白いものが出てきましたのでご紹介します。
 それは、その番組のディレクターが場面・場面で僕に質問をたくさんしてきたのですが、それを文章にしたものです。

 ご紹介する質問は、「和田さんは風が大事だと言ってその実践を見せてくれましたが、その時に何を意図して動いていたのか」というような内容です。

 プロフェッショナルの映像にも出てきますが、グル―ホームを開設して間もない、ある日の朝食作りのときです。

 僕の回答は、皆さんにわかりやすくするためにアレンジしましたが、意味としては下記の通りです。

 まずその時の僕の課題意識ですが

  • (1)声の大きいKさん(女性)の独断場になっている調理行為を、入居者が協働できるようにすること
  • (2)他の入居者と全く関わろうとしない、調理行為にも加わろうとしないNさん(女性)が他者と一緒に行動できるようにすること
  • (3)立ちしごとが嫌いで座ってばかりいるIさん(男性)に「立ちしごと」を取り入れること

 この3点を一気に解決するために何が必要かを考えて挑んだ朝食作りの場面が、映像化されているということです。

 最初にIさんにコメをとぐことをお願いしたところ、「おまえに言われたら、しょうがないな」という感じでとりかかってくれました。
 僕が予想した通りKさんは、米をとぎだしたIさんに近寄り、Iさんに「わたしがするので、あんたはあっちへ行っとき」的なことを言っていたので、Kさんに食器を出していただくようお願いしました。Kさんには、Iさんは足が悪いことを伝えたので、Kさんはスムーズにその場を離れて食器棚に向かってくれました。

 Kさんがキッチンから離れたことで「他社が調理に関わる機会」を確保できましたので、Fさん(女性)に調理(コンロ周り)をお願いできましたし、Kさんから強く言われると引きがちなHさん(女性)や、他者とまったくかかわろうとしないNさんが参加しやすい環境を設定することができました。

 Hさん、Iさんは、この日までに「調理能力があるか・ないか」は試みて、「ある」のはわかっていましたが、Nさんだけは未知でした。

 そのため、まずはHさんに声をかけて調理に加わっていただき、Hさんを一人にして、和田の隣にNさんが入ってきやすいように空間をつくり、その後にNさんに声をかけ、僕がかかわり続けました。

 こうして、それまではKさんの独断場になっていた調理場と調理行為を、Iさん、Hさん、Fさん、Nさんまで加わった「協働の場と行為」に変えることができ、僕の中で掲げた目的を達成することができたという場面です。
 もちろん、このあとにはKさんにも加わっていただきました。

 こうして説明すると、「意図的に入居者を動かしている」とご批判をいただきかねないのですが、僕はグループホームというコミュニティで暮らす方々が互いに関係性を感じられて、互いに助け合って生きていけるように意図して支援することが、とても大事だと感じているし、それが「個別ケア」の向こう側にある「共同生活介護」で、これは特養だとか通所介護では制度上なかなか得られない、グループホーム(正式名称:認知症対応型共同生活介護)ならではの支援策だと自負しています。

 こうしたささやかな一場面を積み上げていくことで、人と人の関係性が深まり、深まれば「我」も出しやすくなるし、相手のことを重んじるようにもなれます。
 「協働」って大事ですよね、人にとって。

追伸

 年中行事のようになってしまいましたが、携帯電話を紛失して連絡がとれなくなっています。関係する皆さん、申し訳ありません。今しばらくお待ちください。

写真

 写真に写っているNさんは、グループホームから四六時中外へ出ていかれる方で、ここでは書きませんがさまざまにご近所からクレームをいただく状態にあり、プロフェッショナルの映像で「ケガをした方」です。ブログを読んでくださっている方の中には憶えていらっしゃる方も多くいるのではないかと思います。
 それでも、本文のようなことを職員さんたちが積みあげていけるようになったことで、しばらくは写真のような光景を見ることができました。これは入居して約1年後の光景です。