和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
順繰り
昨日、関西まで「相談にのり」に行ってきました。
通常ならば「(その土地の)地域包括支援センターに相談に行くように」と伝えるのですが、仲良しだった学友より受けた相談事なので「よし、俺がオヤゴさんに会いに行くよ」という「ノリ」で事が進みました。
オヤゴさんは八十過ぎ。
配偶者に先立たれ、御屋敷で一人住まいとなってから、みるみる活気が失せ、とても一人では置いておけない状況になり、今は「外部サービス利用型の有料老人ホーム」の「自立型」というやつに入居しているとのこと。
事の始まりは「ある集まり」で、久しぶりに学友に再会したのですが、僕が介護業界に居ることを知っているため、この歳に学生時代の友と会うとありがちな「親の介護」について順当に話が展開しました。
「こうこうこういう理由で老人ホームに入れたんやけど、親が死にたい・死にたいって言ってて、参ってるんやわ」
「飯を食べようとしないねん、痩せてきてなぁ」
とため息をつく友人。
親のためを思って、あちこち探して回って「ここなら気に入ってくれるやろ」と決めたにもかかわらず、結果「死にたい」と言われたら参るのもうなずけます。
オヤゴさんに「初めまして、和田と申します」とご挨拶をすると、「何言うてんの、会ったことあるやん」って感じで跳ね返ってきました。
実はオヤゴさんに会うのは初めてではなく、40年少し前に一度だけ瞬間的にお会いしているのですが、それを憶えられているはずもなく、どなたかと勘違いしているようで、まだまだ記憶もしっかりしているとはいえ、認知症の状態にあるのです。
見た目「とてもステキな、お上品ないいとこのご老人」という感じで、友人が準備してくれた特別なお店で食べる特別な中華料理をご一緒しました。
隠れているのはスペアリブ
よくお喋りされます。
友人を含む二人の子が、週に1回ずつ会いに行っているようですが、友人は必ず外食に連れ出しているようで、堰を切ったように喋っていました。
友人が席を外した時オヤゴさんに、いろいろとぶつけてみました。
ぶつけてみて「死にたい」につながることが見えてきました。
友人に再会したのは9月ですが、その時に聞いた話では「死にたい」と、もうひとつ「家に帰りたい」があったのですが、それから約2か月の間にオヤゴさんの気持ちにも変化が見られているようで、「ここ(施設)は安心」という言葉が聞かれました。
もうひとつ「お食事は食べていますか」とさりげなく聞くと、いろいろ言われましたが結局はあまり食べていないようで、その理由は「おいしくない」とのこと。
これはとても気になったので、角度を変えて何度かそれにまつわるように話を仕掛けたところ、行きつく先に出てくる言葉は「おいしくない」「おいしければ何でも食べます」だったので、よほど口に合わず、それが苦になっていることがわかりました。
友人の話によると「施設のはやわらかい。私はかたいのがいい」と言っていたようで、老人食といっても過言ではない施設の食事では、味付けや量、かたさが口に合わないのでしょう。
それが「三食・毎日・いつ終わるとも言えない」と思うと、オヤゴさんにとって地獄といえば地獄、「死にたい」となっても無理からぬこと。
その言葉のとおり、年齢の割には料理の食べ具合は快調で「美味しい」を何度か口にしながら、その食べっぷりはお見事でした。
友人に「これやな」と伝えたのと、もう一つ気になったお喋りについても、その理由を見出すためにいろいろな話を仕掛けてみました。
すると見えてきたのは「共同生活上の他人さんとの関係」で「ともだち枯渇状況」でした。
これも友人にあとで聞くと「親の性格的なこともあって、簡単に言えば嫌われ者になってるようやわ」とのこと。また、若いころから親しくしてきた友人が1年ほど前に亡くなるなどの背景もわかった。
そんなこんなの結果、僕からのアドバイスと手立ては次のとおりとしました。
- ○ オヤゴさんの口に施設の老人食は合わないやろうし、お部屋に冷蔵庫もあって食べ物はストックできるんやから、「食べろ食べろ」と言って悪玉ストレスをかけないこと。
- ○ 体重計を買ってきて定期的に体重測定をし、BMI(Body Mass Index)で食事量の目安をつけること。
- ○ 子と子が会いに行く間(週の真ん中)を埋めるための「ともだち(有償ヘルパー)」を探して、ショッピングに出かける、おいしいものを食べに行く、お喋りに花を咲かす、そして知らず知らずのうちに身体を動かすことをやろう。
- ○ オヤゴさんの「わが・まま」を受け止めること。だからこそ今のお前(友人)があることを忘れないように。
と進言して帰ってきました。
それにしても最近よく聞く「複合型施設」のわかりにくいこと。
友人から説明を受けても全く得体が知れなかったのですが、「それも無理ないわ」と思いました。
そこは入居系施設が、ひとつの玄関の建物の中に階別に2種類の有料老人ホーム(共に介護付きですが、ひとつは外部サービス利用型)と特別養護老人ホームが存在し、いくらていねいな説明を受けても「介護付き・外部サービス利用型」ですからねェ。素人である家族等が理解するのは容易ではないと思いました。
また、社会福祉法人が運営する施設ですが、有料老人ホームの入居一時金が2000万円と書かれたパンフレット&料金表を見て仰天でした。
僕の年62歳に至ると親は80歳代半ば以上が普通ですが、集まると「親の死」や「親の介護」の話になるのは当たり前で、いよいよ「友の死」「我の死」が迫ってきているってことでもあり、それが人類規模で考えればの順繰りで、宇宙規模で考えれば、いつか「地球崩壊=地球に留まる人類の最期」なんですよね。
写真
ちびっこ3号の学校説明会に行くと、ちびっこ1号の書いた習字が掲示されていたようです。
連れ合いから写メが送られてきたのですが、よくよく見ると「力という字を力強く書く」授業だったように見受けられるのですが、右下にひとりだけ「上という字をか細く書いた半紙」が掲示されていて「面白いなぁ」と思って見てたら、連れ合いからのコメントに「うちの子だけ、上です」と。
そもそも「これ、学校の授業でありなの。そもそも掲示しても良い事なの」と思ったが、ちびっこ1号に理由を聞いてみようと思いすっかり忘れてしまっていた。
友人の婆さんの話を聞いている場合じゃないよね。これ!
でもこれこそ、正統な順繰りなのかも…。
案内
11月10日
注文をまちがえる料理店の本が発売になります。
あさ出版
「注文をまちがえる料理店」
小国士朗(おぐに・しろう)著
四六並製/本体1400円
2017年6月。
日本のみならず世界中の話題をさらったレストランがありました。
その名は「注文をまちがえる料理店」
この不思議であたたかいレストランのものがたりを1冊にまとめたのが本書です。
I部ではこのレストランで本当にあったお話(物語)を、II部ではこの企画の発起人である小国士朗氏による開設ならびにレストランにかける思いを掲載しています。(あさ出版 チラシより)
ぜひともお読みください。