和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
法則性
先日、ある宿の温泉で暖簾をくぐり脱衣場に入ると、女性がいたのでびっくり!
「あ、間違えた」と思い「すいません」と言って慌てて出て、暖簾の色を確認したら「男性」で間違っていませんでした。その直後に、入っていた女性の方が「すいません、私が間違えています。ごめんなさい。入れ替わっているんですね」と出てこられました。
この宿のお風呂は、夜と朝で男女が入れ替わる(右に入る、左に入るが入れ替わる)仕組みになっています。ノレンの色は「男性が青」「女性が赤」とわかりやすくしてはいますが、それに気をもっていないと「昨夜入った側の風呂場に入ってしまう」ことが起こっても致し方ないでしょう。
日本に限らずかもしれませんが、トイレも「右側が男性」「左側が女性」と法則性をもって作られていませんから、僕は、前回利用した公衆トイレ「右側が男性トイレ」と同じと思い込んで右側に入ってしまい、結果女性トイレに入ってしまったことがあります。
トイレの水タンクにつけられた水を流す器具も「A社は向こう側に押すと大」「B社は手間に引くと大」と共通の法則性がなく、そのことに気が向いていなければ我が家と同じ行動をとってしまってもおかしくはありません。そのせいか、使い慣れない公衆便所なんかでは大便を流し切れていない状態が見られたりします。
道路は「日本では左側通行」の法則があり、国内ならどこに行っても初めてのところでも、ほぼ間違うことはないでしょうが、海外に行くと「右側通行」となる国もあり普段とは逆側を走るわけですから、慣れるまではとまどいますし、間違えてしまわないか不安を感じます。
日本の場合、食器は多くのところで「いわゆる食器棚」にしまいますので、認知症の状態になっても食器を探すときは食器棚のところに行けるでしょうが、例えば、食器を冷蔵庫の中など使い慣れていない場所にしまうと探しきれないのではないでしょうか。
一般的に日常生活の中で法則性のあるものは、子供の頃からずっとそれに慣れ、それが身についてしまうので認知症になっても間違いが起こりにくいでしょうが、法則性のないものや使っている時間が短いと身につかず、対応しきれなくなってもおかしくありません。
認知症の状態にある方が暮らすグループホームでIH卓上コンロを使って鍋料理をしたとき、入居者は「炎がない」ので「これ、火がつかない」とずっと戸惑っていましたもんね。
僕は、ずいぶん前から「超高齢社会、認知症の状態にある方が増加する社会を見据えて認知症対応社会が必要」と語ってきましたが、そちらに向かうどころかますます複雑多様になってきて、わかりにくくなっている感をもっています。時代の移り変わりようが早いですからね。
同時に、「性別をわかりやすく男性を表す色、女性を表す色にする」ことに対して異論が出ているようなので、「法則性をもってわかりやすくする」ことも多様性との関係で課題がありそうですから、もっと複雑になるか、「障害者用トイレ」と表示されていたのが「誰でもトイレ」となってきているように、シンプルになっていくかでしょうね。
どこまでも様々な能力が低下するであろう高齢者は存在するわけで、知恵の出しどころです。
写真
10年以上ぶりに岡山駅前にきました。山陽新幹線の開業からすでに50年になりますが、岡山駅前にイオンモールができているなど景色が随分と変わっていてびっくり。僕が大好きだった駅前商店街はシャッターが増えているようで寂しい限りです。