和田行男の婆さんとともに
「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。
- プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)
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高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。
言葉のカベより高く難しい概念のカベ
ある専門学校でのことです。
ここ数年で学生は様変わりしており、今年は半数が海外からの留学生で、その出身国も五か国ですから、日本も入れて六か国の方々によるグローバル授業です。
短気な僕にとって、海外から来られた受講生への講義は苦手です。というのも、日本の方だけの授業以上に自分ペースで進めていけないもどかしさが沸いてくるからです。
ならば講義を受けなければいいじゃない
となるのですが「求められたことには応える」のが、世間に発信している者の最低限の務めと思っていますから、自分のほうから受けないという選択肢は基本的にはなく、うまくいくはずがなくても何とかしようと思ってしまうんですよね。
でも、せっかくの多国生がいる授業ですから、少し愉しませていただきました。
「文化」「文化の違い」「違いを受け止める」「違いを知る」ことを伝えるために、ご飯の食べ方を聞いてみました。
ある国の方は「手で食べる」、ある国の方は「スプーンで食べる」、日本の方は「箸、スプーン、フォークで食べる」とのことで、食べ方に違いがありましたが、その違いを浮き彫りにしたうえで、今度は「同じ」を確認しました。
生まれついたときは「与えられるものを摂り込む」、産まれてからしばらくすると「手づかみで摂り込む」、またしばらくたつと「道具を使って摂りこむ」という共通がありました。
道具を使って食べる習慣がない国から来た方も、日本では「道具を使って食べる」のが一般的ですから、それを身につけようとされていました。
つまり、生まれ・育ち=文化の違いはあったとしても、人としての共通「自分で摂り込む」は共通だということです。
こんな確認作業をしながら「支援」について伝えたのですが…。
要介護者の基本は「一旦獲得した能力が衰退し自力で遂行することができなくなった状態」であり、その方々への支援には大きくは三つ、それ以外に一つの実態があります。
- 1 自力でやり遂げることができる方へは、それを維持できるようにすること。
- 2 自力でやり遂げることができない方へは、やり遂げられない理由を探し出して、やり遂げられるようにすること。
- 3 それでもやり遂げられない方へは、代わりにやってあげること。
これが「支援」の基本だと僕は考えていますが、介護の現場ではそれ以外に
- 4 自力でやり遂げられることも介護職員が代わりにやってあげること。
があります。
1と4はわかりやすく伝えやすいのですが、要介護状態にある方が「何ができて・何ができないか・できない理由は何か」の「見極めが必要」な2と3は、特に海外から来られた方に理解していただくことが難しいですね。
というのも「お世話をする=介護の仕事」という概念が根強いですし、実際の介護現場でも「その通り」になっている場合が多いからでしょうかね。言葉のカベよりも高いかも。
ベトナムに行けば、現地につくった日本語学校で話をする機会もあり、日本語が留学生よりもはるかにおぼつかない方々ですからね。
この苦手(課題)を克服していかねばですが、「理解していただくことが難しい」という先入観を捨てきれるかどうか、自分の伝え方に課題があると本気で思えるかどうかですが、実際に海外から来られた方に僕自身が直接実践的にお伝えする機会をつくることが肝で、そこから伝え方を学び取ることなんでしょうね、必要なことは。今年は挑んでみましょうかね。
追伸
連日、トルコ・シリアの大地震による被災報道がされていますが、生後七か月の赤ちゃんが139時間後に生きて救出された報道には、「よかったなぁ」よりも「エーッ、人間ってスゴイ!」と思わず声を出してしまいました。
写真
日本の見識ある行政官でさえ「認知症の方は包丁が使えるんですか」と言っていましたからね。難しいのは無理からぬかも。