高室成幸のケアマネさん、あっちこっちどっち?
全国津々浦々、研修・執筆・アドバイザー活動を神出鬼没(?)・縦横無尽に展開する高室成幸さん(ケアタウン総合研究所)。
研修での専門職との出会いや、そのなかでの懇親的な現場を届けます。
- プロフィール高室 成幸 (たかむろ しげゆき)
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ケアタウン総合研究所所長。
日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい介護・福祉の人材の育成を掲げて活躍をしている。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、社協・行政関係、地域包括支援センター、施設職員等の研修会などで注目されている。主な著書に『介護予防ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『ケアマネジャーの質問力』『新・ケアマネジメントの仕事術』(以上、中央法規)、『地域包括支援センター必携ハンドブック』(法研)など著書・監修書多数。
ユマニチュード入門~認知症の人とのコミュニケーション~
先日の火曜日、「認知症の人とのコミュニケーション」と題した講演会に渋谷に出かけました。NHKクローズアップ現代で放映され、人気?に火がつき、6月の認知症ケア学会では「ユマニチュード入門」(医学書院刊:本田美和子共著)が飛ぶように売れまくっていました。早速、私も購入し、本を読み、DVDを視聴しました。
感想は、「今までの認知症ケア実践と、どこが特段違うのだろうか?」でした。もちろん、私の読解力のなさからそうとしか思えなかったのかもしれません。それでは、じかにお話を聴くしかないと思っていると、そのタイミングが・・・。
ホスピタリティ☆プラネット(主宰:藤原瑠実さん)の定例研修会で、著者の本田美和子医師が講演をする機会を見つけたので、楽しみにしていました。MLでお知らせが来たので翌朝申し込むと、なんと時すでに遅し!でもキャンセル待ちをお願いしたら、1番手となれたようで、無事に参加することができました。
「私たちの医療現場は、いま大変なことになっています。認知症の患者さんたちが治療を受けてくれないのです。私たち医療職は、病院に来る患者さんは、治療を受けたい、治りたいために来ているという大前提が刷り込まれています。だから抵抗されるということ自体が受けとめられないのですね」
本田先生は、なぜユマニチュードが医療現場で効果的なのか、を自らの現場の体験から話し始められました。
「実は、認知症の方には自分からすすんで来たという自覚はありません。なぜここにいるのか、なぜ注射や点滴をされるのか、抵抗するとなぜ拘束帯で縛られるのか、ご本人はまったくわからないのです。でも現場の看護師は、なんとか誠意を持ってかかわろうとするのですが、大変な抵抗や暴言を受け、それがやりきれなくて病院を去るというパターンになっていたのです」
認知症の人にとって、理由もわからずに「痛い」ことだらけの治療(注射、点滴、ガーゼ交換など)を強制されることは恐怖でしかないでしょう。動画で紹介された口腔ケアの様子。まず口を開けない。手が突っ込まれることはわかるので、絶対に口を開けずに抵抗しています。これは、ちょっと考えると当たり前ですね。
では本人にリラックスして口を開けてもらうには、どうすればよいか。これは本当に難題です・・・だからユマニチュードなのですね。
「ユマニチュードは、あなたは大切な存在です、ということを相手にわかるように伝えるためのテクニックなのです。4つの柱があり、(1)見つめること、(2)話しかけること、(3)触れること、(4)立つことです。」
とてもシンプルですね。
「ユマニチュードには、かかわりの5つのステップがあります。(1)出会いの準備、(2)ケアの準備、(3)知覚の連結、(4)感情の固定、(5)再会の約束、この5つを行います」
これらを実際に参加者にも協力してもらいながら話が進みます。
私が印象に残ったのは、(3)知覚の連結ですね。触覚(ふれる)、視覚(見つめる)、聴覚(聴く)に、ポジティブなメッセージを同時に伝えることで「心地よさ」を生み出すということ。
そして動作を事細かく「言葉化」することで、安心感を与える。ここでもポジティブなメッセージを伝えることが重視されます。
口腔ケアの場面で、「はい、終わりました」と結果を伝えるのでなく、「お口がきれいになりました。気持ちよかったですねぇ」とプラスの感情を伝えるのがポイントとされます。
講演終了後に、ある方が手を挙げて質問をされました。
「認知症ケアでは、バリデーション、パーソン・センター・ド・ケア、タクティールケア、回想法、センター方式などがあります。どれもみなさん、自分たちが一番と思ってらっしゃる。本田先生は、これらのケア手法についてどのようにお考えですか?」
なかなか、鋭い、私もぜひ確認したい質問でした。しばらく考えた後の本田先生の回答です。
「それぞれに良い点はあると思います。・・・実は、先月の緩和ケア学会で、いまおっしゃるみなさんが、一堂に並んでシンポジウムをしたんです。私もいました。(会場からおお、という小さな歓声)。そこで確認したのは、目的、めざすところは一緒だということです。やり方がちがうということですね。ただ・・・(言葉を選びながら)私の知り合いの看護師で回想法やセンター方式などを実践しているその人は、治療のようにすぐに対応しなければいけない時は、ユマニチュードは効果的だと思います、と言われました」
ユマニチュードは認知症ケアだけでなく、ICU、小児病棟、透析、歯科治療などでも効果的に使える手法だと本田先生は話されました。
私は症状に応じて多様な認知ケア手法を実践できる人が育つことが肝心だと思います。その意味で、ユマニチュードもその一つだと。
どのような手法も、自分で咀嚼することなく「鵜呑み=丸呑み」すると、腹も壊しかねない(頭が混乱する)ものです。
食わず嫌いはやめて、まずは一読されることをおすすめします。
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