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高室成幸のケアマネさん、あっちこっちどっち?

高室 成幸 (たかむろ しげゆき)

全国津々浦々、研修・執筆・アドバイザー活動を神出鬼没(?)・縦横無尽に展開する高室成幸さん(ケアタウン総合研究所)。
研修での専門職との出会いや、そのなかでの懇親的な現場を届けます。

プロフィール高室 成幸 (たかむろ しげゆき)

ケアタウン総合研究所所長。
日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい介護・福祉の人材の育成を掲げて活躍をしている。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、社協・行政関係、地域包括支援センター、施設職員等の研修会などで注目されている。主な著書に『介護予防ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『ケアマネジャーの質問力』『新・ケアマネジメントの仕事術』(以上、中央法規)、『地域包括支援センター必携ハンドブック』(法研)など著書・監修書多数。

ひと相手の仕事

 仕事を選ぶとき、私は漠然と「ひと相手」が仕事にできるならいいな、と思っていました。それはモノづくりのように根気がないからなわけで・・・それと、手先が器用ではない、これも大切な理由。でも、やっぱり相手がモノだと反応がないのがもどかしいというか・・・。


 しかし、世の中、ひと相手の仕事は苦手だ、正直面倒臭いし嫌いという理由からモノづくりのほうが落ち着くという人もいます。
 だったらモノづくりの雰囲気そのものが嫌いというと、私はそうでもありません。陶芸家や絵描きさんのようなアトリエに足を踏み入れるのは大好きなんですね。なにかが生み出される空間って魅力的ですからね。

 書いていて思ったのは、モノづくりだけでなく、モノ運びが好きという人はいますね。つまりトラックの運ちゃんですね。タクシーの運転手さんも、そう。ほとんど話をしなくても成立しますからね。

 では具体的にどのようなひと相手仕事がいいか・・・
 ご多分に漏れず「学校の先生」には憧れましたね。中学の時の社会の先生がカッコよくてね。ああいう教師になりたいなと思い、教育実習までやりましたからね。
 これがまた、生徒たちに受けたんですよねぇ。ああ、教えるのが好きなんだな・・・と。それはいまでもとても役に立っています。


 ひと相手といえば、第3次産業に働く皆さんですね。つまりサービス業。お客さんに「モノを売る」か、お客さんが「モノを買うサポート」をする仕事ですね。
 では医療や介護はなんですかね。第3次産業というのも妙ですね。だから第4次産業といっていいのではないかと思います。なにが違うかというと相手との間に「モノ」が介在しないことですね。
 呼び方も変わりますね。医療なら「患者」、介護なら「利用者」ですかね。お客様と呼ぶには抵抗がありますからね。

 そこでそこで・・・
 「ひと相手の仕事はなぜ疲れるか~感情労働の時代~」(武井麻子著 大和出版刊)をご紹介したいと思います。武井さんは某看護大学の教授で看護師のメンタルの研究者です。ほかに「感情と看護~人とのかかわりを職業とすることの意味~」(医学書院刊)も書かれていますね。
 ひと相手の仕事は「感情労働である」と喝破したのは20年前のアメリカの社会学者A.R. ホックシールドです。「管理される心~感情が商品になるとき~」(世界思想社刊)は2000年に出版されています。

 ひと相手の仕事は肉体より頭脳より「感情」を使っている・・・ホックシールドはアメリカの航空会社の客室乗務員(通称:スチュワーデス)を研究対象にしました。乗務中の彼女たちは「満面の笑顔」なのに、着陸後はお客の悪口ばかりを吐くのはなぜだろう?というのが彼女の研究の動機でした。
 そして気がつくのです。客室乗務員たちの笑顔は「管理された笑顔=作られた笑顔」である。つまり感情そのものを航空会社がマニュアルという方式で彼女たちに強いている、ということに・・・


 そしてもっとも過酷な感情労働者は「看護、介護などのケア職」である、と指摘しています。まさに武井教授はその視点から日本の看護におけるバーンアウトを解き明かしました。

 では、看護やケア職の人たちが過酷でもどうして辞めないのか・・・もちろん社会的必要性に駆られて頑張る人もいるでしょう。感謝の言葉が励みになる人もいるでしょう。
 でも、突きつめてみると「ひと相手の仕事が好き」ということはあるでしょうね。辞められない・・・それはパン職人や陶芸職人も同じではないでしょうか?買ってくれる人がどれほどいるかわからないのに、今日も「焼き上がりを楽しみにしている」という人たち・・・
 好きだから続けられる・・・
 素敵なことですよね。
 好きを見つけられ、そこに身をおいていられることの素晴らしさ。

 多分、なにが起こるかわからないおもしろさ・・・
 人とのコミュニケーションそのものが仕事になるおもしろさ
 もちろん看護では医療機器や治療機器があり、介護では車いすや福祉用具、オムツなどいろいろと道具は使うのですが・・・

 もちろん、好きだから収入は少なくてよいとは思っていません。ただ、とってもむずかしいですよね。第4次産業は官が統制する「疑似産業」の面があるからです。つまり医療報酬や介護報酬ですね。パン屋や陶芸は顧客の財布が相手。ところがこちらは財布の紐を官が握っている・・・
 ルールを守っていれば倒産はしない、入金が遅れることもない。でもいくらやっても売り上げは変わらないとモチベーションも下がりがちなったりして・・・でも感情は相当ハードに使わなくてはいけないわけで・・・


 ここの矛盾をどのように整理すればよいか・・・
 私も現場を応援する立場としていつも考え込んでしまいます。

 なにはともあれ、私はやはりひと相手の仕事が好きですね。
 ひと相手の仕事で働く人たちも好きです。
 それを堂々と言うことはけっしてズレていないと思います。

 だって「好きを仕事にできる人は幸せだ」と言いますもんね・・・。

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 全国研修の様子は、ケアタウン総合研究所の公式FBをご覧ください。