高室成幸のケアマネさん、あっちこっちどっち?
全国津々浦々、研修・執筆・アドバイザー活動を神出鬼没(?)・縦横無尽に展開する高室成幸さん(ケアタウン総合研究所)。
研修での専門職との出会いや、そのなかでの懇親的な現場を届けます。
- プロフィール高室 成幸 (たかむろ しげゆき)
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ケアタウン総合研究所所長。
日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい介護・福祉の人材の育成を掲げて活躍をしている。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、社協・行政関係、地域包括支援センター、施設職員等の研修会などで注目されている。主な著書に『介護予防ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『ケアマネジャーの質問力』『新・ケアマネジメントの仕事術』(以上、中央法規)、『地域包括支援センター必携ハンドブック』(法研)など著書・監修書多数。
小説スクラップ・アンド・ビルドを読む
今回の芥川賞はちょっと異色です。
2週間前です。月刊文藝春秋の電車の中吊り広告に笑ってしまいました。
「芥川賞はお笑いも介護も文学にする」
こうきたか・・・と思いました(笑)。ならば、小説「火花」は月刊文学界に掲載された時によんで、このブログでも書きました。今回は「介護」をモチーフにした純文学はいかばかりかと羽田圭介著「スクラップ・アンド・ビルド」を読みました。
大卒で自動車会社のディーラーをすぐに退社し、宅建から行政書士資格受験に変更した健斗(27歳)が主人公。4階のマンションの最上階に母と母の父、つまり認知症で他のきょうだいが見放した祖父(84歳)と3人で暮らしています。
認知症の祖父は要介護3のよう。しかし実態は要介護2程度?ですかね(私見)。彼は日雇いバイトと行政書士の資格勉強のかたわら、日中は祖父の介護をしています。
日中のトイレ、食事介助などもろもろは孫の彼の役割。しかし介護のスタンスは「あぁ面倒くせぇ」。いろいろやるとついつけあがる祖父の甘えにつきあいきれなくて、いつも内心で悪態をついています。
しかし、外面はよく思われたい彼なので、ついつい心にもないやさしい言葉をかけたり、トイレに誘導したり、とりあえず仕方ないけど小まめに介護をするさまが描かれます。
実の母がこれまた口が悪く、祖父が「早く死んでしまいたい」といえば「早く死んでしまえ」と息子の前で実の父に吐き出すので、いつしか、彼も死ぬことに手を貸すこともアリかなと思うようになります。
そこで幼なじみの大輔に相談します。彼は地元の3流大学を卒業後、介護の会社に就職し、いま、グループホーム4年目です。かれに正直に相談するとなんとすごいアドバイスが返ってきます。
「健斗の言うことを実現させるとなると、被介護者の動きを奪うのが一番現実的で効果的だろうな。時間はかかるけど。(中略)過剰な足し算の介護で動きを奪って、ぜんぶいっぺんに弱らせることだ。使わない昨日は衰えるから・・・。要介護3を5にする介護だよ。(中略)でも、幇助するほうにとっても賭けだぞ。中途半端に弱らせても死なせてあげられなかったら、介護が今より余計面倒になって、家庭介護者のストレスは増すからな」
このアドバイス以来、ネグレクト気味だった健斗の介護はよりていねいで親切になっていきます。もちろん内心は悪態をついて・・・ しかし、しばらくすると祖父の印象が変わり始めます。心から感謝をするようになるのです・・・すると健斗も次第に祖父がこのようになってしまったことに理解を示し始め・・・
ある日、祖父が風呂場で溺れている場面に出くわします。このまま、そのままにすれば祖父は・・・健斗の心は揺れ、彼が取った行動に祖父の反応は・・・
とストーリーは流れていきます。
特に大きな事件があるわけでもなく淡々と流れていく小説です。これがなぜ芥川賞に?といくぶん不思議な気持ちの私ですが、まずは若い作家が介護を小説のモチーフにする時代になっただけでも隔世の感があります。
いつも思うのは、小説家は想像力で描くのですが、現場を知っている私やみなさんだったら、グループホーム4年目の大輔のセリフは、あまりにリアリティがないことに気づかれると思います。
小説の狂言回しとしてちょっと登場しているだけで、健斗の人生に深く関わったり、寝たきり幇助のためにさらなるアドバイスをすることもなく・・・このあたりが表面的な取材しかできていないな、と興ざめしたり・・・。
この小説を読んだ人が「認知症グループホームには、このようなことを平気でアドバイスする人がいる」とイメージを持たれてしまうのを危惧します。
もっと、歪んだ家族関係が介護でさらに葛藤する様や孫が介護をする時の母との関係などを深く切り取ってもらいたいなと思った次第です。
関心のある方、一度は読まれてみるのはいいと思います。
今月号の月刊文藝春秋8月号なら、小説「火花」を含めて2作品をお得に読めますからね・・・(^^;)
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