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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第22回 補いあう関係がベスト

同じ能力を求める適性教育

 日本の音楽大学を卒業して、音楽の都ウイーンに留学したピアニストに、日本とウイーンでの音楽教育の違いを尋ねました。そうすると、日本では手本を正確にまねる演奏が求められるのに対して、ウイーンでは常に個性的な演奏が求められるとのことでした。手本を正確にまねさせる教育は、日本の福祉職をはじめとする専門職教育でもみられます。最も優れた成果を上げた人の特性を分析し、その特性を学ばせるコンピテンシー教育が、広くみられるのです。コンピテンシー(competency) とは、能力とか適性という意味です。例えば、コミュニケーション能力、アセスメント能力、計画力、連携能力、実行力、振り返り能力などと、業務を遂行する上で必要となる多くの能力をあげて、それらが一定水準に達するように学習させます。そうすると、どこを切っても同じ巻き寿司のようにスタッフは同じ顔になり(写真)、一見すると見栄えは良くなるのです。

克服できない弱みもある

 確かに、どの職業にも求められる能力があり、それを目指す人には適性が問われます。ただし、コンピテンシー教育一辺倒でスタッフを完全に標準化(均一化)してしまうと、個性を活かしてイキイキと働けなくなるのです。そもそも、不足する能力の背景に私的な生活環境(家庭環境など)がある場合には、ワーク・ライフ・バランスを求める時代の流れに逆行することになります。また、その背景に成育歴がある場合には、本格的なカウンセリングを必要とします。さらに、その背景に持って生まれた先天的特性がある場合には、なおさら克服が難しくなるのです。克服が困難な弱みを改善することに時間と労力と費用をかけるよりも、いま持っている強みを活かして働くほうが、いきいきと働くことができます。そして、自分の強みを活かしながら、職場に貢献することができるのです。

本来のチームマネジメント

 本連載の第20回で紹介したように、職場でみられる好き嫌いの人間関係の多くが、類似性の要因で生じています。同じ価値観やライフスタイルの相手に親しみを抱き、つい一緒になってしまいます。ところが、この類似性の要因による組合せが、常にベストカップルとなるわけではありません。権力志向の二人がつぶし合うように、似た者同士が衝突することは珍しくありません。実はベストな組み合わせは類似性の要因ではなく、相補性の要因で結びついた関係なのです。例えば、人づきあいが得意なスタッフと物づきあいが得意なスタッフとが一緒になれば、総合的なサービスが可能となります。夜型のスタッフと昼型のスタッフとが一緒になれば、24時間のサービスが可能になります。そして、本連載の第6回と第7回で述べた多職種からなるチームだけではなく、たとえば介護福祉職同士など、同職種からなるチームにおいても、一人ひとりの強みを活かして互いの弱みを補い合うように、メンバーを組み合わせるのが本来のチームマネジメントであり、リーダーや管理職の役割なのです。

カンファレンス・トレーニング

 次のカンファレンス・トレーニングに取り組むと、一人ひとりの強みを活かして、互いの弱みを補い合う関係を築くことに役立ちます1)。まずは多様な分野からなる10問の3択問題に一人で取り組みます。次に3~4人一組となり、互いの名前と答えを書き写します(表1)。その後、10分間で話し合い、より正しい答えを「集団決定」の列に記入していきます。10分が経過したところで、正解を見ながら、各メンバーの正解数と集団決定の正解数を記入します。そして、(a)個人の最大正解数(最も正解数が多かった人の正解数)、(b)個人の正解数の平均、(c)集団決定の正解数を記入し、グループ効果(c-b)とリソース活用度(c-a)を求めます(表2)。グループ効果がプラスになれば、話し合いで正解数が増えたことになります。リソース活用度がゼロもしくはプラスになれば、正しい意見が活かされたことになります。最後に、互いの弱みを補い合いないながら、それぞれの強みを活かして、よりよい結論に至る会議の在り方について、参加者同士で話し合うと効果的です。

文献:
1)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p125 – 133