スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント
今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!
けあサポ編集部
- 著者:諏訪茂樹(すわしげき)
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人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。
第19回 退職につながる人間関係
感情に基づく関係が大半
職場の理念や将来の見通しとともに、福祉職の退職理由で常に上位争いをするのが、職場の人間関係です(本連載の第1回)。職場の理念、目標管理、キャリアパス、スタッフ育成という流れで、前回まで話を進めてきました。今回からは退職理由となる人間関係に、目を向けたいと思います。ひとことで人間関係といっても、利用者との関係や同僚との関係など、福祉の職場は多様な人間関係から成り立っています。ただし、退職理由となるのはおもに同僚との関係であり、しかも、役割に基づく公式の関係ではなく、感情に基づく非公式の関係であることは、読者の皆さんにも経験上から想像がつくでしょう。利用者との関係は、感情に基づく関係も含め、福祉職の養成課程で学ぶことができます。また、同僚との関係も、役割に基づく関係は、学ぶ機会があります。ところが、同僚との感情に基づく関係は、正面から取り上げられることが少なく、悩みながら諦めている人も多いでしょう。
感情は極めて人間的反応
福祉職と医療職とか、スタッフと管理職とか、職場ではさまざまな職種や職位のメンバーが集まり、一緒に働いています。また、同じ職種のスタッフでも、担当の利用者や勤務時間を分担しながら、ともに働いています。そこで、それぞれのメンバーが、自分の職種、職位、分担に応じて、まるで機械の歯車のように、公式の役割を淡々とこなせば、それで職場はうまく機能するはずです。ところが、人は機械の歯車ではありません。人は意識を持つ存在であり、さまざまに感じたり考えたりする存在です。ですから、スタッフが同僚に対して非公式に感情を抱くのは人間らしい反応であり、職場で感情の問題が生じるのもごく自然なことなのです。だからこそ、「たかが感情の問題」と言って、軽視するわけにはいきません。スタッフ間で感情の問題が生じているのに、リーダーや管理職が非公式の問題として扱い、見て見ぬ振りをすると、退職者が相次ぐことにもつながるのです。
好き嫌いの人間関係
人に対して抱く感情を対人感情といいますが、その中でも代表的なのが好き嫌いの感情(好意と嫌悪)です。やや好意を感じる同僚には、会うと気持ちよく挨拶ができます。そこそこ好意を感じる同僚には、会っただけで嬉しくなります。とても好意を感じる同僚には、ずっと一緒に働きたいと思うのです。逆に、やや嫌悪を感じる同僚には、しかたがなく挨拶をします。そこそこ嫌悪を感じる同僚には、会っただけで不快になります。とても嫌悪を感じる同僚には、いなくなって欲しいと思うのです。しかし、いなくなって欲しいと思っても、相手がいなくなるとは限りません。そこで、自分からいなくなるしかなくなり、退職へとつながるのでしょう。ただし、自分は相手と一緒にいたいと思っても、相手は自分にいなくなってほしいと思うこともあります。つまり、実際の人間関係は相互関係であり、職場では多くの相互関係が複雑に入り組んでいるのです。
このチームの問題点は?
集団内の好き嫌いの相互関係を、一つの図に整理したのがソシオグラムです1)2)。次の図はソシオグラムの一例ですが、この集団の特徴は何でしょうか?「主任が孤立している」とか「スタッフGが孤立している」というのは、主任やスタッフGの特徴です。集団全体の特徴と言えば、副主任派と反副主任派の二つに分けれており、しかも両者が対立していることです。このようにまずは森全体を見たうえで、つぎに木を見ていくことになります。対立のキーパーソンは誰でしょうか?副主任は一方的に好かれているか嫌われているだけであり、その意味で受動的です。逆に能動的な役割を果たしているのはCとDであり、この両者への働きかけが問題解決には不可欠であることがわかります。働きかけの方法はさまざまであり、正解はありませんが、たとえば、両者と面談して「あなた達の責任で1ヵ月以内にこの問題を解決して下さい」と伝えて、自己解決により職業人として成長してもらうのも、一つの方法でしょう。
図 ソシオグラムの一例
- 文献:
- 1)諏訪茂樹『看護のためのコミュニケーションと人間関係』中央法規出版、2019、p120-122
- 2)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p59-60