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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第17回 ゴールを目指すスタッフへのコーチング

目標を明確にする

 福祉職であるスタッフに「あなたの目標は何ですか1)2)と尋ねて、「経営者になることです」とか「寿退職することです」という答えが返ってきたとしたら、指導者や管理職は喜んでいる場合ではありません。第5回でも述べた通り、福祉職にとっての目標管理は援助過程です。したがって、自分の人生目標ではなく、利用者に対する援助目標を立てなければ、福祉職は強みも責任も発揮できないのです。もちろん、新人にいきなり利用者を任せて、援助過程を展開してもらうことはできないでしょう。しかし、新人から若手へと成長し、さらに中堅の域に達したスタッフには、利用者の尊厳を守るという福祉の理念を実現するために、利用者の生活をしっかりとアセスメントしてもらわなければなりません。そして、利用者と話し合いながら援助目標を立てて、一人ひとりに合った質の高い個別援助を提供することを、目指してもらわなければならないのです。

これまでを振り返る

 利用者への援助目標が明確になったところで、「どのように努力して、どれぐらい目標に近づきましたか」と尋ねて、これまでを振り返ってもらいます。まったくの手つかずの場合もあれば、ゴールの目前まで来ている場合もあるでしょう。たとえ手つかずの状態であっても、ありのままを振り返ってもらう必要があります。そのために、「これまで何をしていたんですか」と叱ったり、「ダメだな」と否定的な評価を下したりなど、スタッフの振り返りを妨げる行為を、指導者や管理職は差し控えなければなりません。叱ったり否定的な評価を下したりすると、スタッフは不快な感情を抱くことになり、冷静な思考の妨げになるのです。これまでを冷静に振り返ることができなければ、真に効果的な解決策を考えることも難しくなります。

障害を明確にする

 これまでを振り返ったところで、「何が障害になっていますか」と尋ねて、目標を達成するうえでの阻害要因を考えてもらいます。この際に、スタッフにとっての外的障害だけではなく、内的障害にも向かい合ってもらうことが大切となります。外的障害とは、「人手が足らない」「時間が足らない」「予算が足らない」など、スタッフを取り巻く環境(外側)にある阻害要因のことです。それに対して内的障害とは、「やっても無理という思い」とか「やる気になれない私」など、スタッフの意識(内側)にある阻害要因のことです。福祉サービスを取り巻く環境は決して恵まれているとはいえず、利用者の問題を解決するうえでの外的障害も間違いなくあります。しかし、すべてを外的障害のせいにしてしまうと、「あきらめるしかない」という結論に至る危険性があるのです。

解決策を引き出して支持する

 目標を達成するうえでの障害が明らかになったところで、「今後、どうしたらいいと思いますか」と尋ねて、解決策を引き出します。解決策は一つとは限りません。様々な解決策の中から、「それなら私にもできる」「うまく行きそうだ」という、自己効力感につながる解決策を選ぶのがポイントとなります。そのためには、過去に経験したことのある解決策や他の人が取り入れている解決策も参考にして、様々な方法を考えてみるのがよいでしょう。また、指導者や管理職による「あなたなら大丈夫」という励ましも効果を発揮しますし、スタッフ自身による心身のリフレッシュも積極的な気持ちにつながります。いずれにしても、スタッフ自身も納得する妥当な答えを引き出したところで、「わかりました。じゃあ、そうしましょう。また次回、経過をお聞かせください」と言って、答えを支持することになります。

プロセスレコード2

自分の言葉 相手の言葉 備 考
①あなたの目標は何ですか。 目標の明確にする
②一人ではできないことが増えて、自信をなくしている利用者に、自尊感情を取り戻してもらうことです。
③これまで、どのように努力し、どれぐらい目標に近づきましたか。 これまでを振り返る
④介助することで、できるようになりましたし、「できてよかったですね」と声をかけているのですが、利用者は浮かない表情なのです。
⑤何が障害になっていると思いますか。 障害について考える。
⑥やはり、自分一人でできなくなったことを、利用者は受け入れられないのだと思います。
⑦今後、どうしたらよいと思いますか。 解決策を考える
⑧意識はしっかりされていますし、俳句のテレビ番組をいつも楽しまれていますので、一日一句の俳句づくりをお勧めしてみますか。
⑨わかりました。じゃあ、そうしましょう。また次回、経過を教えてください。 自己決定を支持する
文献:
1)諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング』中央法規出版、2007、p63、p114
2)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p105、p107