成年後見制度のあれこれ
第1回 成年後見制度の全体像

【著者】
君和田 豊(きみわだ ゆたか)
君和田成年後見事務所代表、社会福祉士・精神保健福祉士・社会保険労務士・旧:訪問介護員(ホームヘルパー)1級
2007(平成19)年に社会福祉士登録。2012(平成24)年に現:公益社団法人日本社会福祉士会の成年後見人養成研修修了後、一般社団法人千葉県社会福祉士会権利擁護センター「ぱあとなあ千葉」の登録員として活動中(後見人等の候補者として千葉家庭裁判所に名簿登録)。
はじめまして。この連載を担当させていただく君和田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本連載では、成年後見人として活動中の方や成年後見制度に興味のある方などに、私自身の実践経験も踏まえて、後見実務の知識や活動の実態をお伝えすることを目的としています。
社会福祉士としての活動分野の一つでもある成年後見制度について、テキストだけでは分からないことも余すことなく紹介する予定ですので、ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
これから週1回のペースで全12回の更新をしてゆきますが、各回におけるテーマは以下の通りです。
第1回 | 成年後見制度の全体像 |
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第2回 | 成年後見制度の種類と役割 |
第3回 | 成年後見人になるための資格と要件 |
第4回 | 成年後見の前提知識 |
第5回 | 財産管理における成年後見人の役割 |
第6回 | 身上保護の原則と実践 |
第7回 | 家庭裁判所の役割と機能 |
第8回 | エンディングノートと遺言書 |
第9回 | 死後事務の取り扱い方 |
第10回 | 実際の後見実務の流れ |
第11回 | 成年後見制度の実践例 |
第12回 | 成年後見制度の今後の課題 |
まず今回は第1回目として、成年後見制度の全体像をお伝えして参ります。
成年後見制度の目的
2000(平成12)年4月1日に成年後見制度が施行されてから、ついに今年で25年となります。
成年後見には、民法に基づく「法定後見制度」と、任意後見契約に関する法律に基づく「任意後見制度」とがありますが、圧倒的に利用されているのは前者の「法定後見制度」です。
この制度は認知症の方、知的障害のある方、精神障害のある方など判断能力が不十分な成人(被後見人等)を保護し、適切な支援を提供するための制度です。 これらの人々の権利を守るため、家庭裁判所より選任された成年後見人等(本人の親族のほか、法律や福祉の専門職、その他の第三者(市民後見人)、福祉関係の公益法人など)が、重要な役割を担っています。
成年後見人の主な役割は、財産管理や身上監護などの法的な支援を通じて、被後見人等の方々の自主的な権利を正しく持てるように支援することです。
例えば、成年後見人は、被後見人の方々の生活や財産を守るため、誤った意思決定から結ばれた契約や不当な搾取にあたる契約の取消などを行うことができます。
このように被後見人等の日々の暮らしを支える成年後見人(制度)ですが、開始25年を経て大きな見直しの時期に差しかかっています。
2016(平成28)年に成立した「成年後見制度の利用の促進に関する法律」により、「成年後見制度利用促進基本計画」が策定され(現在は令和4年度から令和8年度までの第二期)、成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進専門家会議において改革が検討されています。最新の第19回成年後見制度利用促進専門家会議では第二期成年後見制度利用促進基本計画に係る中間検証報告書(案)が公表されました。
この中で、成年後見制度の運用改善のための課題として、次の4つが示されています。
- ①本人の特性に応じた意思決定支援とその浸透
- ②適切な成年後見人等の選任・交代の推進等
- ③不正防止の徹底と利用のしやすさの調和等
- ④各種手続における後見事務の円滑化等
また、優先して取り組む事項として、次の5つが挙げられています。
- ① 任意後見制度の利用促進
- ② 担い手の確保・育成等の推進
- ③ 市町村長申立ての適切な実施と成年後見制度利用支援事業の推進
- ④ 地方公共団体による行政計画等の策定
- ⑤ 都道府県の機能強化による権利擁護支援の地域ネットワークづくり
ここでは、現状の課題を踏まえて、より良き制度になるよう今後の方向性が具体的に示されていると思います。これらの詳しい内容については、興味があればぜひ報告書を参照してみてください。
日本における成年後見制度の現状
次に、今後の改革の方向性を知るためにも、現状の成年後見制度の運用状況を見てみましょう。毎年、最高裁判所が「成年後見関係事件の概況」を公表しており、以下は令和5年分のデータです
(なお、令和6年分については3月に公表されますので、本連載最後の回で触れる予定です)。
成年後見の実践にかかわる主な内容として知っておきたいのは、次の5点でしょうか。
①申立件数
令和5年の申立件数は40,951件と、ついに約4万件の大台に達し、連続での過去最高を更新しました。類型については後見開始が28,358件と、全体の7割程度を占めています。この傾向も変わらずです。
②申立人と本人との関係
申立人の属性は、以前は「本人の子」が最も多かったのですが、近年では「市町村長」が増えており、令和2年からは市町村長が最も多くなっています。令和5年では9,607件と全体の約23.6%を占めています。必要とする人が適切に成年後見を受けられるような環境整備は、先の計画でも優先的に取り組む事項となっています。
③本人の男女別・年齢別割合
男性(43.8%)より女性(53.2%)の割合が多いのは男女の平均寿命の違いからでしょう。また、男女ともに80歳以上の占める割合が最も多くなっています(次いで70歳代)。筆者の担当するケースもそうですが、やはり認知症高齢者の方が被後見人等ではメインと言えるでしょう。開始原因別割合でも、認知症が最も多く全体の約62.6%を占めています。
④申立ての動機
被後見人の方々にとって、お金の取扱いはとても大きな関心事です。申立ての動機として「預貯金等の管理・解約」が最も多いのも納得です。筆者の場合はそれほど高額な財産の方はおられませんが、億単位の財産をもつ方もそう珍しいことではありません。平成23年に項目名が「財産管理処分」から改められて以来、今回まで常に1位です。
⑤成年後見人等と本人との関係
成年後見人等と本人の関係については、親族が全体の約18.1%、親族以外が成年後見人等に選任されたものは、全体の約81.9%となっています。つまり専門職が後見人になる割合が圧倒的で、先の中間検証報告書でも課題となっています。当初は親族後見人の方が圧倒的に多かったことも考えると、制度の見直しは確かに必要でしょう。なお、専門職の割合は司法書士が最も多く、次いで弁護士、社会福祉士というのは安定した傾向です。
今回は成年後見制度の概要として、特に成年後見制度を取り巻く改革の方向性や実態としての現状を中心に見てみました。
次回は「成年後見制度の種類と役割」について解説します。