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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

平成25年度障害者虐待対応状況調査結果から(2)

 施設従事者等による虐待の都道府県別の状況は、次の表の通りです。ここでも、自治体による大きな開きが認められます。

◇施設従事者等による虐待・都道府県別
都道府県名CDD/C*100
通報相談認定認定率
件数件数
合計186026314.1
北海道8078.8
青森県23313.0
岩手県1400.0
宮城県19421.1
秋田県4125.0
山形県7114.3
福島県6116.7
茨城県1516.7
栃木県1119.1
群馬県14642.9
埼玉県3438.8
千葉県1041918.3
東京都1691710.1
神奈川県388297.5
新潟県1000.0
富山県200.0
石川県16212.5
福井県24833.3
山梨県18316.7
長野県32721.9
岐阜県10110.0
静岡県381334.2
愛知県791519.0
三重県33515.2
滋賀県17529.4
京都府26415.4
大阪府1522214.5
兵庫県63914.3
奈良県12216.7
和歌山県9333.3
鳥取県11436.4
島根県20525.0
岡山県39410.3
広島県571017.5
山口県23417.4
徳島県1700.0
香川県1715.9
愛媛県21314.3
高知県9333.3
福岡県6046.7
佐賀県21419.0
長崎県21628.6
熊本県29724.1
大分県1600.0
宮崎県15533.3
鹿児島県32721.9
沖縄県23417.4

 認定件数0件の県が5か所ありますし、首都圏の埼玉・千葉・東京・神奈川や関西圏の京都・大阪・兵庫をそれぞれの括りで比べると大きな隔たりがあるなど、支援現場における虐待の実態を正確に反映していると理解するには無理があるでしょう。

 一部の報道では、施設従事者等による虐待の認定率が低いことを根拠に、認定方法の問題を指摘する向きがありました。養護者による虐待の認定率が38.1%であるのに対し、施設従事者等による虐待のそれは14.1%に過ぎないことは事実です。これら両方の虐待がともに密室性を持っていると仮定するならば、認定の困難性に両者はあまり差がないのではないでしょうか。

 施設従事者等による虐待の認定率の低さをめぐっては、相談通報の事実と認定の方法・基準について詳細に検証する必要があることを指摘しておきます。養護者による虐待の事実確認の担当者は、日常的な支援の担い手が含まれているのに対して、施設従事者等による事実確認は必ずしもそのような立場にいる人とは限らず、役所の中で人事異動してきただけの場合もあるのです。

 以前の役所であれば、自治体が直接的に福祉サービスを提供するセクションは多様にあったため、本庁の障害福祉課等に異動してくる人たちには福祉現場における現業業務の経験者が多く、そのことが監査・指導・政策立案等の仕事に活かされてきた面もありました。ところが、現在の役所の中はそうではありません。介護保険制度では市町村は保険者に過ぎませんし、現業業務の経験は生活保護と児童相談所等にかなり絞られてしまうからです。

 したがって、施設従事者等による虐待の認定の方法・基準については、事実確認・認定を実施するものの専門性と経験を問わない限り、検証したことにはならないでしょう。児童虐待や高齢者虐待における虐待対応の経験の有無を含め、障害のある人の虐待問題に専門性のある担当者が配置されているのかの点検は必要不可欠です。

 また、次の表は、施設従事者等による虐待について、事業所別・職種別にワースト7位までをまとめたものです。

◇施設従事者等による虐待-事業所別上位7位
 事業所計263(100.0%)
障害者支援施設71(27.0)
就労継続支援B型51(19.4)
生活介護36(13.7)
共同生活介護(CH)35(13.3)
就労継続支援A型16( 6.1)
放課後デイサービス15( 5.7)
共同生活援助(GH)10( 3.8)

◇施設従事者等による虐待-職種別上位7位
 職種計325人、(100.0%)
生活支援員142(43.7%)
その他従事者53(16.3)
管理者31( 9.5)
設置者・経営者20( 6.2)
サービス管理責任者19( 5.8)
職業指導員16( 4.9)
世話人16( 4.9)

 事業所別では、障害者支援施設がもっとも大きい数値を示してはいますが、通所サービスである就労継続支援A型・B型に放課後デイサービスを合わせた計で82事業所(31.2%)となっています。施設従事者等による虐待の発生は、いわゆる入所型施設に限られる問題ではなく、障害福祉サービスの全体にかかわる人権擁護の課題であることを明らかにしています。

 職種別にみる最大の特徴点は、生活支援員が最多であるとはいえ、管理者、設置者・経営者およびサービス管理責任者という事業所における経営・管理運営の責任者の虐待行為が目立つことです。これらの合計では、70人(21.5%)となります。

 私が以前に実施した『成人期障害者の虐待又は不適切な行為に関する実態調査報告』(2008年、やどかり出版)の中で、仮説的に指摘した従事者の傾向的問題がありました。それは、何が不適切な行為または虐待であるのかについての判断は、経験を積んでいる年配者の方に問題があり、新人の方がむしろ当たり前の人権感覚を保持しているという意識調査の傾向でした。この業界では、経験年数が必ずしも人権感覚を磨くことにはつながっていないという問題です。

 経営・管理運営に責任のあるものが虐待者の2割以上を占めているという事実は、障害福祉事業所業界における構造的問題があるというべきです。この点での検証も必要不可欠ではないかと考えます。