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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

分身ロボットで就労する


 埼玉しごとセンター(ハローワークと埼玉県就労支援サービスを一体的に運営するセンター)の入口では、分身ロボットが案内係をしています。自宅にいる障害のある人がこのロボットを操作しています(11月5日朝日新聞埼玉版朝刊から)。

 このロボットは「対孤独用分身コミュニケーションロボット」のOriHimeで、オリィ研究所が開発しました。このロボットの開発者である吉藤健太朗さんは、自身の不登校体験から、孤独という社会問題の解決に資するテクノロジーの開発を追究しています。

 オリィ研究所のホームページ(https://orylab.com/)によると、この企業のミッションは、コミュニケーションテクノロジーで人類の孤独を解消することにあります。

 私たちは、「移動(=外に出かける)、対話(=意思疎通を行う)、役割(=仕事をする)などを行うことで社会に参加しています」が、「何らかの理由でそれらが不可能になると、社会へのアクセス自体が閉ざされ、自分に無力さを感じ、人を避けるようになるという悪循環に陥ってしまいます」(同研究所のホームページより)。

そうして、分身ロボットは孤独の要因である「移動」「対話」「役割」をめぐる困難を解決するために開発されました。

 昨年の6月、東京日本橋に「分身ロボットカフェDAWN」(DAWNとは、夜明け、あけぼのの意)がオープン(https://dawn2021.orylab.com/#concept)し、マスコミがこぞって報道しました。

このカフェは、接客してコーヒーを客席に運ぶのも、コーヒーを入れるバリスタも、ともに分身ロボットです。ロボットを操作するパイロットには、脊髄性筋萎縮症(SMA)で寝たきり状態の人や筋萎縮性側索硬化症(ALS)のある人たちがいます。

 AIで動くロボットではなく、人間が遠隔操作して、他の人に応対します。パイロットがお客さんに「いらっしゃいませ」と話しかけたり、おしゃべりをしたりするのも、操作しているパイロット自身の声と判断によるものであり、ロボットを介して相手のニーズに応えるのです。だから、「分身」ロボット。

 全身性の障害のある人の場合は、視線だけで分身ロボットを操作することもできます。分身ロボットのある暮らしの様々が紹介されています(https://avatarworld.info/)。

在宅療養を余儀なくされている秋田県在住の女性は、分身ロボットのパイロットとなって、東京都品川区にあるモスバーカー品川店のセルフレジのアシスト係として働いています。同様に、オーストラリア在住の子育てを終えた日本人女性が、分身ロボットカフェDAWNで働いているのです。

 発達障害等に起因する知覚過敏のある人は、静謐な環境に身を置いた状態のまま、相手の話す音量を手元でコントロールすることを含めて、就労の妨げとなってきた知覚過敏の問題をクリアしています。

 分身ロボットOriHimeのエバンジェリスト(最新のテクノロジーやITのトレンドなどをユーザーに分かりやすく解説し、広く知らせる役割を担う専門職種)みるふぃーゆさんは、テレビ電話や生身との違いを踏まえて次のような説明をしています。

 まず、パイロットが分身ロボットと「一体化したような感覚」を持つことができる点です(https://note.com/onemillefeuille/n/n57c768f752f2)。

 このロボットのパイロットに提供されるインタフェースは、次の二つです。
①受動的インタフェース
 ・カメラを通した映像(視覚)
 ・スピーカーから聞こえる音声(聴覚)
②能動的インタフェース
 ・腕を動かすことによるジェスチャー(表情・表現)
 ・首を動かすことによる映像制御(視点移動)

 パイロットの言葉がロボットを介して相手に伝わるだけでなく、感情を表わすこともできますし、パイロットの見たいところに視点を移動させることができるため、道具としてのOriHimeには「自己帰属感」があると言います。自分の体の一部であるような感じでコミュニケーションと情報のやり取りが可能になる分身ロボットなのです。

 もう一つは、ロボットを介した人と人との関係において、感情共有ができ、親近感を創出する点です(https://note.com/onemillefeuille/n/nea6df4871a67)。

 OriHimeを介した二者は、相手との会話の中で臨機応変に共通の体験や話題を発見し、それらをコトバという道具を使って自然に深めることができます。つまり、ロボットを介して、人間同士が確かに存在し、親近感を持った「会話や雑談ができる」のです。ここにAIによるロボットとは決定的な違いがあり、孤独を解消するための確かなテクノロジーとなっているのです。

 昨年6月オープンの分身ロボットカフェDAWNの報道に、私は衝撃を受けました。モビリティや体調面で困難のある人が就労できない、多様な市民とコンタクトするのが難しいという長年の課題を、この分身ロボットの登場が解決に導きます。

 重度の障害のある人や知覚過敏に苛まされてきた人にも、これまでとは全く次元を異にする夢のような新時代が到来したと言って差し支えありません。

 すでに、病弱児童の入院中の学校教育の保障に、分身ロボットの活用が始まっています。OriHimeが登校し、OriHimeを介して入院中の子どもが授業に参加するのです。遠足や修学旅行に直接参加することはできなくとも、OriHimeを介して電車やバスの中の会話に参加し、様々な景色を楽しみ、就寝前の枕投げの様子を味わうこともできるのです。

 すると、大学や大学院への進学をさまざまな事情から諦めざるを得なかった人たちも、分身ロボットを大学に通学させて授業を受けてゼミに参加することが技術的には可能になったということです。今後の展開に期待が膨らみます。

 その他にも、これまでにない障害のある人への支援に係わる様々な取り組みが始まっています(「超福祉の学校」http://peopledesign.or.jp/fukushi/symposium/3651/)。

 21世紀に入ってすでに20年以上が経過しました。今世紀に入り、私は新しい仕事に取り組んではきましたが、自分自身の持つ身体感覚や人間と社会を見る視線は、20世紀後半の古いバージョンの型が未だにベースとなっているような気がしてなりません。

福祉の支援現場と当事者団体は年功序列システムのところが多いですから、新しいテクノロジーの発展に理解のない幹部職員による「老害」がこれまで以上に発生しやすい時代になっていることを十分わきまえるべきでしょう。

八高線キハ110系気動車

 さて、懐かしいアナログ的な話題です。画像は、JR八高線の高麗川-高崎間を走るキハ110系の気動車です。この区間は、首都圏の近郊区間で唯一の非電化路線であるため、懐かしいディーゼル列車に乗ることができます。

 八高線は横浜線と共に、群馬の生糸を横浜から輸出するために敷設された路線です。富岡製糸場で作られた生糸も大量に運んでいたのはないでしょうか。今は、2両編成で運行されています。

 比較的新しい気動車で電車に近い走りをするとのネット上の情報があり、北海道や四国を走る国鉄時代のキハ40系(2014年7月28日ブログ参照)とどのように違うのか楽しみに乗ってみました。鉄ちゃんではない私には、残念ながら、あまり違いは分かりません。ただ、発進時や上り坂で「ドゥルルルルッ」というディーゼルエンジン特有の響きを体感できた点で、20世紀的な満足を得ることができました。