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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

施設従事者等による虐待の通報の実態から


 施設従事者等による虐待の通報者(「相談・通報・届出者」を「通報者」と略)の構成をみると、深い疑問が湧いてきます。

 2020(R2)年度の障害者虐待対応状況調査結果から、施設従事者等による虐待の主な通報者を確かめてみましょう。

 虐待の発生した当該施設の関係者による通報は、次の通りです。

  • ・「設置者・管理者」369件(13.8%)
  • ・「施設・事業所職員」537(17.6)[内訳は、サービス管理責任者105、サービス提供責任者8、児童発達支援管理責任者10、その他の職員414]
  • ・「施設・事業所の元職員」144(5.0)

 現役の当該施設の関係者の合計は、906件(29.8%)となります。元職員による通報は、勤め先を辞めなければ通報することのできない職場事情のあることが予想され、それが全体の通報件数に占める割合で5.0%、当該施設関係者による通報件数に占める割合でみると13.7%(=144/1050×100)にも上るという事実は大きな問題です。

 利用者とその家族からの通報は、次の通りです。

  • ・「本人」492件(17.2%)
  • ・「家族・親族」302(10.5)
  • ・「当該施設・事業所利用者」42(1.5%)

 利用者関連の合計は、836件(27.5%)となり、現役の施設関係者の合計(29.8%)との差はほとんどありません。

 同様のことを、同年度の被措置児童等虐待対応状況調査結果で見てみましょう。

 虐待の発生した「当該施設・事業所等職員、受託里親」からの通告は、150件(38.6%)です。元職員による通告は、5(1.3)です。

 子どもとその家族からの通告は、153件(39.3%)[内訳は、児童本人108、児童本人以外の被措置児童等20、家族・親族25]です。ここでは、当該施設職員・受託里親の割合よりも、少し高い通報割合であることが分かります。

 次に、要介護施設従事者等による高齢者虐待をみてみましょう。

 当該施設関係者からの通報は次の通りです。

  • ・「当該施設管理者等」346件(14.5%)
  • ・「当該施設職員」637(26.7%)
  • ・「当該施設元職員」237(9.9)

 現役の施設関係者の合計は、983件(41.1%)となります。元職員による通報の割合はほぼ1割(当該施設関係者による通報に占める割合でみると19.4%[=237/1220×100])にも達しており、要介護施設職員による虐待の発生する職場には深刻な問題のあることを暗示しています。

 利用者関係は次の通りで、合計すると395件(16.5%)となります。

  • ・「本人」63件(2.6%)
  • ・「家族・親族」332(13.9)

 高齢者の領域は、該当施設職員による通報の割合が高く、利用者関係からの通報割合の低さが目立ちます。とくに、本人からの通報が著しく少ないのは、認知症や要介護度の重さを背景事情とする通報の難しさがあるのでしょうか。この辺は、高齢者虐待防止に取り組んでいる梶川義人さんにお訊ねしてみたいですね。

 さて、支援に係わる施設・事業所の職員には、一般市民よりも重い虐待の早期発見に係わる努力義務があります。虐待と思われる事態をいち早く知り得る立場にいるのですから当然です。すると、施設従事者等による虐待の通報者の割合は、常識的に考えると8割くらいあってもいいのではないかと思うのです。

 障害者、子ども、高齢者のいずれの領域でも、当該施設の職員の割合は半数を下回り、障害者と子どもの領域では、利用者とそのご家族による通報とほぼ拮抗しているのです。

 つまり、施設職員という「職業的支援者」に課せられた虐待の早期発見に係わる重い責任と通報の義務は、形骸化しているのではないかという不信感を抱かざるを得ません。

 「同僚を告発する」というイメージがつきまとい、職場の人間関係を考慮すると通報にブレーキがかかってしまうからなのでしょうか。もし、このような背景事情があるとすれば、虐待通報に関する職員への方向づけを管理者が行っておらず、利用者の権利擁護を最優先に考える仕事の運びは乏しく、利用者主体の原則はなきに等しい事態にあると言わざるを得ません。

 虐待は一般に、突然発生する性質の事象ではありません。施設の管理運営のまずさ、職場の人間関係の悪さ、専門性の欠如、閉鎖性・密室性の温床等が重なり合って、不適切な支援が長期間くすぶり続けている土壌から虐待が発生します。

 したがって、施設職員に求められる虐待防止の社会的責任は、「不適切な支援のアウトプットとしての虐待」への事後的対応だけではなく、虐待の発生を未然に防止するための不適切な支援の根絶に本丸があります。

 それでも、施設従事者等による虐待の通報でさえ、施設職員がマジョリティとはならないのです。わが国の支援現場の現在は、虐待の防止どころか、通報さえ十分になし得ない構造的な問題があるように思えてなりません。

 神奈川県立中井やまゆり園の虐待事案は、問題解決の当事者能力が神奈川県当局と施設職員にまったく欠如していることを明らかにしました。この施設の虐待については、これまで固く閉ざされた(おそらく本庁ぐるみでしょう)施設の扉と窓を第三者委員会が「こじ開けて」はじめて、酷い実態が明らかになったのです。

 中井やまゆり園には、大量の虐待を産出するための、不適切な支援の「肥し」がふんだんに蓄えられてきた歴史的で構造的な問題が間違いなくあったと考えます。

 しかし、2010(H22)年に神奈川県社会福祉士会による中井やまゆり園の「福祉サービス第三者評価」の報告書は、「人権への配慮」「サービスマネジメントシステムの確立」「運営上の透明性の確保と継続性」「職員の資質向上の促進」のいずれの点でも絶賛し、改善すべき点は「自己評価の最終評価に、第三者が参加し、評価を受けることも必要と思われる」という指摘のみです(http://kacsw.or.jp/third_person_evaluation/rst2010_03_nakai.html)。

 それでは、福祉・介護サービスの利用者は、一体、どこに信頼を求めればいいのでしょうか? 真の利用者目線による施設・事業所の評価を実施するために、サービス利用者と当事者で構成する「全国福祉・介護サービス利用者の権利を擁護する連合会」でも創設して、「福祉・介護サービス施設・事業所ミシュランガイド」を毎年発行するのはいかがでしょうか。バカ売れすると思います。

3年ぶりの川越祭り

 先日、川越祭りが3年ぶりに開催されました。食べ物の屋台は路上での出店を禁止し、特定の広場だけに集約していました。これも「感染防止」のために工夫したつもりなのでしょう。が、お祭りですから、買い求めた食べ物を肴にアルコール類を呑みながら路上を歩く観光客は大勢います。「感染防止に努めて祭を開催しました」という露払いに過ぎません。

 私が川越に移り住んできた頃は、「地域住民による、地域住民のための、地域住民のお祭り」だったと思います。が、現在の川越祭りは「より多くの観光客を呼び込むためのコンテンツ」へと変質しました。祭に来る観光客のための臨時駐車場周辺の生活道路は、祭りで呑んで出来上がった人たちの騒がしい話し声が夜分まで響きました。臨時駐車場周辺の住民の一人としては、祭りはただの迷惑です。