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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

改めてNothing about us without us !


 障害者権利条約のスピリットが、Nothing about us without us ! であることは広く知られています。この原則は、子どもの権利条約や男女共同参画の推進のためにも共通して重要だと思います。

 今年の5月27日内閣府は、地方自治体の防災・危機管理部局に配置された女性職員の割合が都道府県で11.2%、市区町村は9.9%にとどまり、61.9%の市区町村には女性職員が一人もいなかった(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022052700315&g=pol)という調査結果を公表しました。

 この現実にはいささか背筋が寒くなります。東日本大震災の避難所では、女性に対する配慮が全く不十分で、避難所での性被害も発生したことは記憶に新しいところだからです。

 垣谷美雨さんの『女たちの避難所』(2017年、新潮文庫)は、東日本大震災を題材に避難所をめぐる女性の物語を描いた小説です。実に読みごたえのある小説で、一気に読んでしまった記憶があります。

 垣谷さんは「文庫版あとがき」(同書351‐353頁)の中で、「この小説を書こうと思ったきっかけ」を次のように語っています。

 「東日本大震災のあと、段ボールの仕切りを最後まで使わせなかった避難所があったと知ったこと」で、その避難所のリーダーは「自分たちは家族同然で、これから協力して生活していかねばならない。互いに親睦を深め、連帯感を強めて乗り切っていきましょう」と話していたそうです。

 「これを強いられた被災者はどんな思いで暮らしていたのかと想像すると、その夜、眠れなくなりました」と。震災の混乱の中で、家父長制的共同体主義による秩序を「絆」と考える時代錯誤があったと思います。

 この小説は、赤ちゃん連れの若いお母さんがダンボールの仕切りがない避難所で授乳に苦労する姿、トイレを男女別に分けない不自由、義捐金が家父長制の強い家族の世帯主の男性に届けられるため女性に渡らない問題等を描いています。

 その他にも、化粧品メーカーの協力で女性に化粧品を配布しようとしたとき、高齢男性が「そんな贅沢なものは配るな」と横槍を入れるシーンがあります。

 女性にとって、基本的なメイク道具と基礎化粧品やドライヤーなどが、日常的な必須アイテムであることさえ理解できない男性は多くいるでしょう。それでいて、避難所の食事作りは女性に押しつけて平然としているのです。

 実にリアリティのある避難所の様子が描かれているため、災害時の避難所のあり方を考える上でも、ぜひ多くの方にお読みいただきたいと思います。

 東日本大震災の直後、現地では、障害のある子どもを育てているお母さん方たちから笑顔が一斉に消えたと聞きました。避難所は普通の人でもなかなか落ち着けないところであるのに、障害のある子どもたちに落ち着きなさいと言っても無理があるのは当然です。

 とくに、自閉症スペクトラムの子どもの場合、避難所は雑多な情報と嫌悪刺激に溢れたところで、パニックを起こさないよう母親だけで対応することは不可能な場所です。

 乳幼児の成長・発達に適した空間でもありませんから、震災後3年ほどは、乳幼児健診のスクリーニングに引っ掛かる子どもたちは激増していたと言います。福島県内のある自治体の3歳児健診では、20名中14名の子どもが発達上の問題を抱えている結果となったと伺いました。

 現地の支援者の携帯電話には、そんなお母さん方からの「何とか助けてほしい」という悲鳴のような連絡がかかってきたと言います。多くのお母さん方は、子どもを連れて避難所の外で何とか時間をつぶし、子どもが疲れて夜ぐったり眠りこむと、ようやく避難所に子ども抱いて戻ったと伺いました。

 避難所の中で子どもがパニックを起こすと周囲の人たちから罵声が飛んでくることもあったと聞いています。だから、子どもを連れて外に出て日中何とか時間をつぶす生活を延々と繰り返さざるを得ない窮地に追い込まれたのです。お母さんから笑顔が消えるのは当然です。

 したがって、避難所のあり方については普段から女性の参画をベースに検討しておくべきだし、避難所の開設や運営についても女性の参画が必要不可欠だと思います。ここに、乳幼児と障害のある人への配慮の検討を含めつつ、障害のある人の参画を含めた避難所のあり方の準備を深めておく必要があると思います。

 また、一般の避難所だけでなく、福祉避難所のあり方についても、障害のある人の参画をベースにした検討や準備がどれほどの自治体で進んでいるのか甚だ疑問です。

 内閣府の公表した自治体の防災・危機管理部局への「女性職員の配置」でさえお粗末な現状です。女性や障害のある人の参画ベースで避難所のあり方を検討し実現する営みは、更にお寒い限りなのではないでしょうか。

 もうすぐ、防災の日である9月1日がやってきます。スーパーやホームセンターに特設される防災用品コーナーをのぞき込むだけでなく、お住まいの自治体の避難所のあり方について調べておくことをお薦めします。障害のある人を含めた避難所のあり方についての自治体の準備は、私の知る限りでは、月とスッポンの自治体間格差がありますから。

ヒマワリ畑‐国立武蔵丘陵森林公園

 滑川にある森林公園のヒマワリ畑です。ウクライナヘの軍事侵攻に係わって、ソフィア・ローレンが主人公ジョバンナを演じる映画「ひまわり」のラストシーンを思い起こしました。災害は備えが大切ですが、戦争は起こさないことが大切です(なお、来週のブログは、仕事で出張するためお休みします)。