宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
研修と実務の乖離
先週、香川県障害者虐待防止研修に講師として参加しました。今回の研修内容は、施設従事者等による虐待に絞りました。支援現場に発生する虐待は深刻な事態が続いています。
それでもまずは、支援現場の客観的な状況を確認しておくのが筋でしょう(以下は、『令和2年度全国知的障害児・者施設・事業実態調査報告』日本知的障害者福祉協会調査・研究委員会、15頁より筆者計算)。
障害者支援に係わる施設・事業所の職員の実態についてです。職員の勤続年数でみると、10年未満が全体の68.2%に上ります。職員全体の7割近くが10年間のキャリアに達していません。
非正規雇用の割合は34.0%です。非正規雇用を年代別で見ると、20代/12.3%、30代/18.3%、40代/27.9%、50代/35.3%と、年齢が上がるに従って非正規雇用の割合は高くなっていきます。
このように、わが国の支援現場は職員の定着率が低く、年代が上がるにつれて非正規雇用の増加することが分かります。つまり、支援スキルの蓄積と支援実務にもとづく専門性の向上に構造的な難しさを抱えていることが分かります。
施設従事者等による虐待は、人権侵害行為を伴う支援の破綻です。わが国の支援現場には専門的な支援スキルの向上を阻みかねない構造的問題があるのですから、アンガーマネジメント研修のようなくだらない取り組みでお茶を濁すのではなく、職場定着と支援スキルの改善につながる本体への施策の充実が第一の基礎的課題です。
この間、Covid-19禍の下、飲食や観光等のサービス業で仕事を失った人たちが大量に発生しました。その中から福祉・介護の職域に流れてきた人たちは決して珍しくなく、私が扱った直近の虐待ケースにも虐待者として登場しています。
福祉・介護の領域は慢性的な人手不足であるため、他の産業領域ではじかれた人たちが「ここでなら正規雇用につながるかも知れない」と入職してくるのです。それは、この間の一貫したトレンドです。
一部の例外を除き、福祉・介護の職員になるために求められる専門性や資格が特にないことをいいことに、求職の最後に辿り着く受け皿になってきたのです。このような人たちは、福祉・介護領域で働くための勉強をしてきた経緯は皆無であり、この領域への職業的な志や情熱がある訳でもありません。
それでも従来は、採用面接のときに、本心ではないにせよ「人を支援する仕事に就きたかった」というような台詞とポーズで取り繕う人が殆どでした。ところが、この間は「別に福祉・介護の領域で働きたいわけではないのですが、仕事を失ったからここに来ました」と率直に言う人が、全国で大幅に増えたと言います。
福祉・介護領域に若者をリクルートする企業の取り組みの中に、この業界を「イメチェン」することによって、若い人たちを「カイゴの仕事」につなげようとする戦略が見受けられるようになりました。
たとえば、他の業種からいきなり支援現場の長になって、支援実務の専門性や蓄積などは何もある筈がないのに、「いかに福祉・介護の仕事に魅力があるか」を粉飾する講話が、いかにもカッコよく騙られているのです。
この軽薄極まりない「イメチェン戦略」は早晩破綻するでしょう。この企業は、このような取り組みを一体どこから委託されているのでしょうか。内容と講師は実に怪しく、ほとんど噴飯物です。
つまり、福祉・介護の業界は支援に係わる方法論的領域の専門性を基軸に据えていないのです。専門的な支援スキルの向上を施設・事業所の経営とガバナンスの柱に据えた事業計画を立てているところは例外的です。
ここに、施設従事者等による虐待の発生する土壌があり、そこに多様な虐待発生の要因が積み重なって虐待の発生が止まらなくなっているのです。
しかも、本来、職員の支援スキルの向上に役立つはずの様々な研修は、利用者の生活の充実に資する支援サービスの向上という点からみれば、まったく形骸化しています。
サービス管理責任者研修を受けた職員が個別支援計画の管理をすれば、事業者報酬が加算されることをインセンティヴとする施策のスキームがあります。しかし、多くの支援現場は、サビ管研修を職員に受けさせるだけで、現場の実務に落とし込んで個別支援計画の管理を向上させることはありません。報酬加算を受け取るためのアリバイ工作がまかり通っているのです。
営利セクターの参入が相次いだ放課後デイサービスでは、サービス管理責任者の名義貸しが商売になっています。支援事業所としての指定を受けるときにサビ管の名義を貸して、場合によっては、開店当初だけは実際に現場にいます。しかし、半年も経つとそのサビ管は名義だけの幽霊になっているのです。
強度行動障害支援者養成研修と虐待防止研修は、国の研修を受けた職員が、自分で実務に落とし込むこともなく地域に戻って研修講師をやっているのですから、地域の研修受講者のほとんどは自分の支援現場で実務に落とせるようにはなっていません。
ここでも、強度行動障害支援者養成研修を受けた人が個別支援計画の管理をしていれば、報酬加算が受け取れる仕組みを国はインセンティヴにしているのです。研修効果の実態が空っぽであることを点検する仕組みは実質的にないのです。
研修受講者が個別支援計画の管理等を通じてサービスの質を向上させていくところに、事業者報酬の加算をインセンティヴとして誘導するという政策手法は、すでに破たんしています。
多くの現場感覚は、研修を受けさえすれば、突然、自分たちがクロからシロにひっくり返るオセロの駒のような塩梅です。国研修を受けてきたことを根拠に、地域で研修の講師を務める側になれば、自分たちが黒に扱われることなく白で居続けられるとタカをくくっている業界幹部関係者は山のようにいます。
実際、障害者虐待防止研修では、支援現場で虐待者と事実確認された職員が大手を振って、県レベルの虐待防止研修の講師を務めている事実さえあるのです。この職員も国の虐待防止研修を受講していますが、自分の実務に活かすことには完璧なまでに無頓着です。
職場外専門研修(Off-JT)を受けた職員には、それを活かした自分の実践ケースの報告を義務づける仕組みが必要です。提出されたレポートを客観的な評価基準から審査して合否判定し、合格者を職場内実務研修(OJT)の責任者とする仕組みを構築するのです。
このようにして系統的な研修と実務本体の質的向上を好循環させる仕組みを構築しない限り、現在のような研修制度の形骸化・空洞化は間違いなく延々と続きます。
法然寺の「竜雲うどん」で
高松藩藩主の菩提寺である法然寺の境内に、社会福祉法人竜雲学園の運営するうどん屋さんがあります。就労継続支援A型事業所です。店内で働く障害のある人たちが、調理場と接客に分かれて、キビキビと、活き活きと働いている様子を目の当たりにすることができます。
ここの讃岐うどんは、実に美味しい。朝11時の開店と同時に入店しましたが、満席に近い状態。ほどなくお店の前には行列ができていました。モチっとしたうどんの食感、出汁の利いた上質で清明な汁、揚げ具合の絶妙な天ぷらの盛り合わせです。半生うどんのお土産は現地購入だけでなく、お取り寄せもできます。おすすめです !!!