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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

Covid-19禍と青少年

 新年度を迎え、新入生オリエンテーションと2年生ガイダンスを対面で実施しました。2年生は入学時に対面でのオリエンテーションを実施できなかった学年です。

 このCovid-19禍の一年間、受験生として過ごしてきた新入生と、大学に入学してオンライン授業がはじまり友人関係を作れなかった2年生です。高校生から大学生への節目をCovid-19禍が直撃し、若者にふさわしい社会関係の充実を図ることが難しかった点で大きな閉塞感があったでしょう。

 講座で同学年の学生たちと教員が一堂に会する機会は2年ぶりです。ソーシャル・ディスタンスを設けて教室に集まった学生たちには、ホッと安堵したような表情がありました。

 一部の2年生に、限られた時間でしたが、この一年間の様子を訊ねてみました。

・授業がすべてオンラインとなり、集中力が持続できず、単位の取りこぼしがあった。
・生活リズムが乱れてリアルタイム配信の授業に出席できないことがあった。
・地方から感染者の多い首都圏に出てきて、怖くて外出できずに引きこもりがちだった。
・アルバイトができず、ギリギリの生活が続いてきた。
・呼吸器系の持病があり、かかりつけ医から重症化リスクを指摘され外出できなかった。

 一部の学生たちの話からだけでも、Covid-19禍が社会的な関係性を剥奪し、不慣れな土地に出てきてアルバイトもできずにギリギリの生活を余儀なくされている様子等を垣間見ることができます。

 Covid-19禍が、とくに若者と女性の窮状を深刻化させている実態は、雑誌『世界』2021年5月号の「特集2 貧困と格差の緊急事態」(145-188頁)が詳しく論じています。

 実際、2020年は青少年の自殺が増加しました。

 警察庁発表の令和2年自殺者数は、総数は21,081人で、対前年比912人(約4.5%)増となっています(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html)。男女別では、男性は11年連続の減少、女性は2年ぶりの増加です。ただし、男性の自殺者数は、女性の約2倍あります。

 これを青少年の年代でみると、10代が777人(対前年比118人、17.9%の増)、20代が2,521人(対前年比404人、19.1%の増)と青少年の年代の増加が目立ちます。

 また、文科省が明らかにした令和2年の児童生徒(小学生~高校生)自殺者数は479人で、対前年比140人(41.3%)という著しい増加です(令和2年2月15日文科省「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」)。

 文科省の資料によれば、6月と8月に自殺者数の山があり、コロナ休校明けと短かった夏休み明けの時期に集中する傾向のあることが分かります。

 原因・動機別にみると、「進路に関する悩み」(自殺者数55人)、「学業不振」(52人)、「親子関係の不和」(42人)、「うつ病の悩み・影響」(33人)、「その他の精神疾患の悩み・影響」(40人)が目立つところです。

 自殺に追い込まれる青少年の心象風景は、自分の未来への絶望感、家族に対する幻滅、精神保健上の深刻な影に彩られているのです。

 国立成育医療センターによる「コロナ×こどもアンケート第4回調査報告書」(2021年1月10日、https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/)は、Covid-19禍にある子どもたちの深刻な実態に分け入っています。

 「中等度以上のうつ症状」のある子どもたちは、小学校4~6年生の15%、中学生の24%、高校生の30%に上っています。

 「こどもの自傷行為やその思い」については、「実際に自分の体を傷つけた」が17%、「体を傷つけたい、死にたいと思った」が24%とあり、自殺予備軍ともいうべき裾野の広がりに対して、具体的な手立てを要する事態にあると言えます。

 「こどもたちのストレス対処行動」については、「全くしていない」25%、「少ししかしていない」24%と、少なくとも半数の子どもたちにストレスが溜まっている様子が窺えます。

 「コロナに関連した偏見・差別」の回答結果は、いささかショックでした。

 「自分や家族がコロナにかかったら秘密にしたい」が「少し思う」「まあ思う」「かなり思う」の合計で63%、「コロナになった人はなるようにことをした」が同56%、「コロナになった人とは治っても遊びたくない」が同22%です。

 感染者に対する偏見・差別と自己責任論に直結する意識であることが明らかになっています。このような意識からすると、高齢者・障害者の社会福祉施設で発生したクラスター感染は、ただその施設に責任があり、感染が収まっても地域で暮らしを共にしたくないというところに帰結しかねない。

 生活に係わる福祉的支援の中で、食事・入浴・排泄の三大介助場面を筆頭に、マスク着用や三密回避ができず、支援者と利用者の懸命な努力が続いていることへの無理解があるでしょう。

 この点については、Covid-19に関する正しい情報を子どもたちと共有する責任を大人(政府と社会)が全く果たしていないと言わざるを得ません。

 正直なところ、私はこれまで、「早くみんなではしゃげるようになりたい」と言う若者に出くわすと、「不見識な奴だ」と決めつける傾きがあったと反省しています。

 このような私の決めつけには、若者は自らの未来を切り拓き、旧世代を建設的に乗り越えていく存在だというアプリオリな措定があります。ここに、実は間違いがあるのです。

 文科省の指導生徒の自殺者数に関る分析が明らかにしているように、自殺する青少年には「自分の未来への絶望感、家族に対する幻滅、精神保健上の深刻な影」が認められます。

 格差拡大の下にやってきたCovid-19禍は、若者と女性が未来を見通すことのできない社会の構造的問題をあぶり出しました。この現実を若者と女性と共に直視して、社会を刷新する関係性とアクションを共にできるのかどうかが、私たちに問われていると考えます。

4月11日の川越時の鐘付近

 緊急事態宣言を引っ込めたかと思えば、すぐさままん延防止措置を持ち出し、結局、飲食店は振り回されています。これで「感染防止と経済のバランスをとることが政治家の務め」という人がもしいるとすれば、迷惑千万なギャグとしか言いようがありません。

 いやっ、もしかすると、政治家としての表向きの体裁は別として、本心は「オリンピックを中止にすべきだ」という政治的信念に由来する、逆説的なパフォーマンスなのかも知れません。いずれにせよ、凡百衆生の小生には理解不能です。

 川越市長による3月20日のメッセージは、市民に対して、ありきたりな感染防止対策を羅列しながら、「不急不要の外出は控えていただき、外出する場合は人混みの少ない場所と時間を選んでください」と言います。

 ところが、川越の中心地は画像のようなあり様が毎日続いているのです。ソーシャル・ディスタンスのない過密な状態で、マスクを外したままスイーツを食べて大声でおしゃべりする事態が、市役所の足元で続いているのです。このメッセージが現実に対する緊張感も実効性のかけらもない空疎なパフォーマンスであることだけは間違いないでしょうか。