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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

男女間暴力の実態調査から

 この3月、内閣府は『男女間における暴力に関する調査報告書』(令和2年度調査)を明らかにしました(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/r02_boryoku_cyousa.html)。

 調査対象は全国の20歳以上の男女5,000人で、郵送留置訪問回収法による有効回収数が68.8%と信頼度の高い調査です。調査結果の詳細は、上述したURLをご覧ください。ここでは、結果概要の中から目につくところをご紹介します。

 なお、この調査における「暴力」は、「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」の4類型としています。虐待防止法の例示といささか異なるところもあり、各類型の例示は次のようです。

〈身体的暴行〉:なぐったり、けったり、物を投げつけたり、つきとばしたりするなどの身体に対する暴行
〈心理的攻撃〉:人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的嫌がらせ、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫
〈経済的圧迫〉:生活費を渡さない、給料や貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害される
〈性的強要〉:嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど

 まず、配偶者間の暴力についてです。

 女性が4人に1人(25.9%)、男性が5人に1人(18.4%)がそれぞれ配偶者からの暴力被害を受けたことがあり、とくに女性の約10人に1人(10.3%)は暴力被害が「何度もあった」と回答しています。

 また、暴力被害のあった人の内、女性の52.3%が、男性34.2%が、それぞれ重複した暴力類型(たとえば、身体的暴行と経済的圧迫など)の被害を受けており、女性の方が重複した被害を受けやすい実態が明らかになっています。

 この点は、私がさいたま市内で実施した障害者虐待に関する調査結果で、養護者による虐待においては女性の障害のある人が重複する虐待類型の被害を受けやすいという実態を明らかにした点と同様の傾向が窺えます(宗澤忠雄他著『障害者虐待‐その理解と防止のために』、2012年、中央法規出版)。

 配偶者からの暴力に係わる相談経験については、女性の53.7%が、男性の31.5%がそれぞれ「相談した」と回答し、男性の相談する割合の低さが認められます。

 配偶者からの暴力被害を受けたことがあり、子どものいる人に、子どもが18歳になるまでの間に子どもが配偶者からの被害を受けたかどうかについては、26.5%が「あった」と回答しています。配偶者間の暴力のある家庭の1/4強では、子ども虐待が重複しています。

 次に、交際相手からの暴力についてです。

 全体では、女性の16.7%が、男性の8.1%が被害を受けたと回答し、女性が男性の2倍となっていますが、同居(同棲)経験中の被害について尋ねると、女性が39.2%、男性が36.7%
と男女差が小さくなります。暮らしを共にすると、被害経験の有無で男女差はほとんどなくなっています。

 交際相手からの暴力の相談の有無については、女性の65.5%が、男性の57.8%がそれぞれ「相談した」と回答し、配偶者間の暴力に係わる相談傾向と同様に、男性の相談につながる割合の低さが認められますが、配偶者間の場合よりも男女差は小さくなります。「結婚」という枠組みは、男性の相談へのアプローチを躊躇させているのかも知れません。

 さて、配偶者間の暴力被害群と交際相手からの暴力被害群の回答結果を比較すると、暴力被害をうけた後の行動について明らかな相違があります。

 配偶者間の暴力被害群では、「相手と別れた」が女性16.3%/男性14.2%、「別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった」が女性44.1%/男性23.7%、「別れたい(別れよう)とは思わなかった」が女性26.7%/男性40.6%、となっています。

 「相手と別れた」ではほぼ男女差はなく、女性は「別れたいと思ったが別れなかった」に、男性は「別れたいとは思わなかった」に、それぞれの割合の高さがある点に男女差の特徴があります。

 これに対し、交際相手からの暴力被害群では、「相手と別れた」が女性59.8%/男性50.6%と配偶者間の被害群よりも別れた割合が高く、「別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった」が女性19.1%/男性15.7%、「別れたい(別れよう)とは思わなかった」が女性13.4%/男性26.5%、となっています。

 交際相手からの被害群では、「相手と別れた」が男女ともに過半数となり、「別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった」が女性に多く、「別れたい(別れよう)とは思わなかった」が男性に多いところは、男女差が相対的に小さくなっているものの、配偶者間の被害群と同様の傾向が認められます。

 配偶者間の被害群が交際相手からの被害群よりも「相手と別れた」割合が小さくなる背景事情は、「配偶者と別れなかった理由」に表れています。

 配偶者間の暴力被害群は、別れなかった理由の第1位に「子どもがいる(妊娠した)から、子どものことを考えたから」(女性71.3%/男性61.5%)が上がり、次いで「経済的な不安があったから」(女性52.5%/男性5.8%)とあり、別れた後の経済的困窮に対する不安が女性に圧倒的に多いことが分かります。

 「子どものことで別れなかった理由」に分け入ってみると、「子どもをひとり親にしたくなかったから」(女性57.9%/男性53.1%)、「子どもにこれ以上余計な不安や心配をさせたくないから」(女性40.4%/男性43.8%)、「養育しながら生活していく自信がなかったから」(女性48.2%/男性15.6%)が上位の3つです。自身の生活不安は、やはり女性に高いことが分かります。

 配偶者間の暴力被害を受けた女性の実態の一端は、「別れた後の」子育てと生活困窮を回避するためには暴力被害を我慢してでも結婚生活を続けることが「自助」になってしまうことを明らかにしているのです。

 これに対し、交際相手からの暴力被害群は、別れなかった理由の第1位が「相手が変わってくれるかもしれないと思ったから」(女性51.4%/男性46.2%)で、「別れるとさみしいと思ったから」(女性40.5%/男性53.8%)となっています、

 「別れなかった理由」の特徴は、配偶者の被害群では子どもの養育を含む生活現実にあり、交際相手からの被害群では親密さへの期待が絡んでいるということができるでしょう。

 この報告書は、子どもの養育と生活困窮に係わる不安を背景に、家族が暴力・虐待の温床になりかねない問題のあることを明らかにしています。

 現代日本の家族には、性的主体を個人として析出させながら、親密さを喪失した夫婦が「子はかすがい」としてボロボロの家父長制的共同体主義を引きずっているとところに、DVと虐待を深刻化させる構造があるのです。

庭のアミガサタケ

 一昨年から、毎年春になると、わが家の狭い庭のあちこちにアミガサタケとおぼしきキノコがひょっこり姿を現すようになりました。アミガサタケはヨーロッパでは高級なキノコだそうで一度は食べてみたい誘惑に駆られながらも、これまで踏み止まって食べない状態が続いています。

 私の従兄は、キノコ狩りをする人のための「食用キノコ・毒キノコ判別講習会」の講師を長年していて、キノコの判別の難しさをよく聞かされてきました。アミガサタケと間違いやすいキノコのすべてを調べ上げた上で判別しているのですが、それでも前に進めません。何かへの恐れと不安は、前向きな人の行動を抑制するのです。