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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

地域の連携支援の試金石

 先日、渋谷区の障がい者虐待防止に係る3回目の研修に講師として参加しました。ソーシャル・ディスタンスと換気を十分にし、マスク着用での研修となりました。渋谷区障がい者基幹相談支援センターの本気度を感じます。

 Covid-19の影響で、多くの自治体は法定以外の研修を中止しています。渋谷区では虐待防止研修を対面式で実施しています。感染防止の諸条件を確保できるのであれば、虐待防止研修は実施し続けた方がいいと思います。

 さいたま市地域自立支援協議会虐待防止部会も対面式で開催しました(8月17日ブログ参照)。この中で、外出と営業の自粛や失業のあおりを受けて虐待が増加していることを共通認識にすることができました。

 このように、Covid-19による生活困難の深刻化と交錯した虐待発生について、今だからこそ地域全体で検討する必要が高まっていると考えています。

 障害者虐待防止法は、この10月で施行から丸8年となります。障害者の虐待防止の取り組みは地方分権型の施策ですから、8年の歳月による自治体間格差はとてつもなく大きいと言わざるを得ません。

 虐待防止の取り組みは、地域の連携支援の水準を端的に示す試金石です。自治体行政の取り組み、相談支援システムの組み方、居室の確保等を条件に多様な専門性を持つ支援者が有機的に連携し、被虐待者の人権と暮らしを擁護できているかどうかは、それぞれの地域の虐待対応事例を検討すれば一目瞭然です。

 養護者による障害者虐待は、長い年月の積み重ねが背景にあります。子ども時代からの不適切な養育など、長い家族の関係がもつれて積み上がったところで発生する虐待は珍しくありません。

 ここで、人権擁護の原理原則に立つことのできない腰の折れた地域の対応事例が目立ちます。虐待を被っている障害のある人の人権擁護に支援目標を定めることができないまま、「家族という形」を壊さないことだけに腐心している対応事例です。

 このような「的外れの腐心」は、現在の「地域生活」の実態が家族扶養を前提に支援サービスを活用することによって、かろうじて成立している現実を顕わにしています。

 障害のある若者が学校教育を卒業して就職して働き続けるために、学校の教師や福祉の支援者が、家族・親による障害のある成年の支援を当たり前のように考える向きは一貫しています。グループホームでの地域生活の継続に、家族・親による適度のインターバルでの支援を当然視する傾向は根強い。

 つまり、成年であるにも拘らず、職場や福祉現場が困ったら、親と家族に対応することを求めるような先進国は日本だけです。

 親がわが子を心配する心の運びを巧みに突いて、親の養護力を搾取し、親の個人としての自己実現と幸福追求権の行使を妨げ続けてきました。この点は、『地域共生ホーム』(全施連編、中央法規出版、2019年)に詳しく書いていますので、ぜひお読みいただければと思います。

 したがって、虐待防止に係る連携支援の取り組みを充実にするには、福祉領域の支援文化を刷新する課題も念頭に置いて、地域全体で長期的展望を持った努力を積み重ねていくことが必要です。

 まず、連携支援の水準を上げていくための核が必要です。基幹相談支援センターと自治体が中心となる自立支援協議会を通じて、地域の相談支援専門員とすべての支援施設・事業所とのネットワークを深化させていくことが大切です。

 簡単に言えば、連携支援の具体的な姿は、核となる組織と支援者のネットワークのあり方によって決まります。そして、これらのシステムを動かしていくためのマニュアルも策定しなければならない。

 地域自立支援協議会で『さいたま市障害者相談支援指針』の策定をしてきた経験から言うと、地域の連携支援システムの組み方とそれを機能させるために必要な実務マニュアルを策定するという二つの課題で、大きな自治体間格差がこの8年間にできてしまっている現実を正視しなければならない。

 渋谷区の皆さんは、連携支援システムの組み方と実務マニュアルの策定の課題にこれから取り組もうと努力されているとともに、事例検討の機会もとても大切にされています。このような努力は、5年後、10年後の、障害のある人の権利擁護を基軸に据えた地域の支援力のゆたかさに間違いなく実を結びます。

渋谷区障がい者虐待防止研修

 さて、渋谷と言えば東京を代表する繁華街の一つです。NHKと民放の全国放送のニュース番組で渋谷駅前のスクランブル交差点が繰り返し映し出されるため、いろんな夢を抱いた若者が地方から東京に出てきて、真っ先に住もうとする地域の一つが渋谷だそうです。

 「若者の夢」には貧困がつきまといますから、渋谷区はリッチな住民だけでなく、意外と生活保護率も高いのです。様々な社会階層から構成される渋谷の街は、大勢の人の往来は激しく、駅や街中を移動するときにマスクを外すわけにはいきません。

 研修の際も、いくら空調設備が整っているとはいえ、マスクを着用したままです。とくに講演でしゃべる方は飛沫を飛ばす側になるためマスク着用は絶対なのですが、それで長時間話し続けるのはやはり大変です。

 一日中マスクをつけて、真夏の街中を移動し、長時間しゃべり続けると、帰宅してマスクを外したら、まるでムンクの絵画『叫び』の人物のような顔になっていました(笑)