宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
焼け野原が広がりつつある
敗戦から75年目を迎える終戦記念日の直前、さいたま市地域自立支援協議会虐待防止部会が開催されました。
今回の会議は、Covid-19をめぐる未曾有の事態の下で、障害のある人たちの地域生活の現状はどうなっているのかを明らかにし、それに対応する支援課題を検討することをテーマにしていました。
このようなテーマを設定したことには、明確な理由があります。Covid-19の感染問題が発生して以降、障害福祉サービスに関する国の方針は、入所型サービスの供給を維持する一方で、通所系と訪問系のサービスは地域と事業所の実情に応じて縮減してよいということになりました。
ホームヘルプサービスの実際でみると、毎日サービスを利用していた人の中には、週2回に減ったり、2週間に1回の利用状況にまでサービス利用が減少したケースがあります。ほとんどは、介護職員が辞めて事業所のサービス供給が減少したことに由来します。
移動支援や通所系のサービスもほぼ同様の状況です。通所系の生活介護や就労継続支援の事業所では週2~3日へとサービスを減少させているところが珍しくありません。
すると、自宅に閉じこもる時間が長くなるのは当たり前です。そこでは、東日本大震災の直後に発生した福島第一原発の重大事故によって、屋内退避を余儀なくされた緊急時避難準備区域の障害児者家族で発生した著しい困難と同様のことが起きています。
この時、緊急時避難準備区域にある支援事業者は、介護・福祉サービスを実施することができなくなりました。学校や保育所も閉じました。障害のある子どもたちの不穏や行動障害は拡大し、高齢化した親と暮らす全身性障害のある人は、ホームヘルパーが来ないために食事・排泄から体位転換などへの対応ができなくなってしまったのです。
今回のCovid-19によるサービス供給の慢性的な減少は、家族と言う生活の基礎ユニットそのものを破綻させています。通所系と訪問系のサービスを必要に応じて活用しながら、親やきょうだいと一緒に親所有の家で地域生活を維持してきた障害者とその家族は、一挙に暮らしをクラッシュさせているのです。
わが国における地域生活の現実は、通所系と訪問系の支援サービスと家族の扶養・介護の組み合わせによって、かろうじて成立していたに過ぎません。「かろうじて」という意味は、障害のある人への意思決定支援や幸福追求権の保障は「脇に放り投げたまま」という意味です。
このような「仮面の地域生活」は、通所系と訪問系のサービスの減少によって、持ちこたえられなくなってしまいました。家族内部では不適切な養護の発生にとどまることなく、一挙に虐待が重症化していくケースが目立ちます。
家族の中の働き手が失業することによって、障害のある人の年金・手当等による貯蓄資産に手をつける経済的虐待も目立ちます。
このようにして、Covid-19の感染問題が発生してわずか半年の間に、わが国の地域ではそこかしこの家から火の手が起こり、まるで「焼け野原」が広がっていくような光景が見えてくるのです。
したがって、障害のある人を一時的に保護分離するだけでは対応しきれない。通所系と訪問系のサービスの絶対量が圧倒的に不足していますから、家族での暮らしを修復する見通しはたちません。
そこで、グループホームでの地域生活に転じようと模索すると、障害のある人の支援に必要な支援力のあるグループホームは殆どありません。支援力の高いグループホームはとっくに埋まっていて、支援の専門性が不十分なまま不動産経営の延長線上で開設しているグルーブホームだけが、「使えない社会資源」として空いたまま残っているのです。
これでは、障害者支援施設を急遽増設するしか手はないではありませんか。こんな事態が続いているままで果たしていいのでしょうか。
サービスの供給量が減少してしまう根っこには、福祉・介護サービスの利用にかかわってPCR検査が保障されていない問題があります。PCR検査を素通りしたままサービス供給量を減らしたところで、感染するかしないかについて「当たるも八卦当たらぬも八卦」の状態が放置されていることには変わりありません。
一つの家族に訪問介護の必要な人が二人いるところで、家族に肺炎の患者が発生したケースがありました。すぐにPCR検査には辿り着けないために、あるヘルパーさんは「命がけ」で訪問介護を続けたそうです。結果的に、この肺炎患者はCovid-19ではなかったのが幸いしただけです。
ヘルパーに「命がけ」の覚悟や熱意を求めなければならない地域支援システムは、すでに破綻しています。ただちに、福祉・介護サービス利用に係るPCR検査を全数保障することによって、訪問系と通所系のサービス供給量を速やかに元に戻すことが絶対に必要です。
また、「3密防止」を前提に生活の質をどのようにして確保していくのか具体的な指針が必要です。日中の時空間の貧困化を食い止め、メリハリのある活動と生活の質を担保できなければなりません。
さらに、人手をかけずにサービス供給を拡充するためには、介護ロボットや全身性障害者も使える全自動特別入浴機器の普及を速やかに検討していくことも求められます。これは、訪問介護や訪問入浴で活用できるツールにすることが重要です。
これらの課題に速やかに対応することができなければ、家族が無理心中へ向かうケースが増えていくことも予想されます。
最後に、これらすべては喫緊の政策課題であることを明言しておきたいと思います。
川越氷川神社の傍にある戦災死没者の慰霊塔です。この慰霊塔には敷地への「立入禁止、川越市」という看板があるだけで、何の説明書きも存在しませんし、川越市のホームページにも出てきません。
総務省「一般戦災死没者の追悼」にここで毎年慰霊祭が開催されているとあるだけです。