宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
テレワークと福祉・介護サービス利用の減少
Covid-19の問題からテレワークが拡大し、家庭での介護・育児等との両立が大きな課題になっています。
テレワークの普遍的な拡大は、家族内部の労働と生活の構造的変化を生んでいますから、わが国の地域福祉のあり方に大きな変容を迫るものではないでしょうか。
テレワークの従来の位置づけは、育児等の必要に応じて週2日間の働き方にするなど、ここという「点」で活用されてきた働き方でした。基本は職場勤務に置かれていました。それが、Covid-19の感染防止の必要から、在宅での仕事を基本とする長期継続的な働き方に変化しつつあります。
しかも、Covid-19への取り組みは「いつまでこの状態が続くのか?」というものではなく、「新しい生活様式」として受けとめ続けなければならない事態です。従来の姿を念頭に置いて、経済活動の必要を盾に「元に戻そう」とすれば、政治家や感染症の「専門家」をあざ笑うかのように、感染拡大が進行するだけです。
テレワークの拡大と育児・介護との両立問題は、テレワークの長期化または普遍化に伴い、わが国の家族をめぐる根本的な課題を改めて浮上させています。
まずは、単純なところでいうと、家で仕事に専念できる場所がない。仕事をする空間を想定したことのない「ウサギ小屋」を基本としていますから、ダイニングテーブルにパソコンや資料を広げなければならない人も珍しくありません。
これだけで、昼飯はどこで食べるのか、夕食の準備の邪魔だとか、家庭のもめ事をつくってしまいます。
次に、通信環境の問題です。自宅の通信環境の整備について、勤務先が責任を負う仕組みになっているのでしょうか。この点については、よく調べたわけではありませんが、なし崩し的に、従業員の個人負担で事が進められているケースが多いように感じます。
三つ目は話題の本丸で、育児・介護との両立をめぐる問題です。ここでまず、もっとも深刻な事態は、保育サービスや通所・訪問型の福祉・介護サービスの利用がこの間減少している問題です。
サービス利用の縮減には、二通りの文脈があるようです。一つは、保育所や施設・事業所の側からサービス利用の自粛要請がある場合です。もう一つは、利用者の側が感染を恐れてサービス利用をできるだけ控えようと対応してきたことです。
在宅で仕事をしなければならない親・家族にとっては、保育所や福祉・介護サービスの利用をむしろ拡大する必要があるというのに、Covid-19の問題はサービス利用を縮減する事態を招いていますから、家族内部の困難は客観的には拡大していると見るべきです。
簡単に言えば、自宅にずっといたまま、家事をしなければならない、育児または介護をしなければならない、仕事をしなければならない。自宅の閉ざされた狭い時空間の中で、場面転換と気分転換がうまく図れないまま、これらのすべてをこなしていくというのは至難の業と言っていい。
たまにはみんなで外食でもして、家族の中の澱んだ雰囲気を晴らすことも現下の状況では難しい。感染防止に留意すると、「GoToトラベル」にも気が引けてしまう。すると、険悪な方向に家族関係が煮詰まることも起こりがちとなります。
もともと家事・育児能力のない父親がずっと自宅にいるだけで、カミさんや子どもたちのストレスが高じている話はそこかしこから聞こえてきます。あるお母さんの言ですが、「亭主には今シーズンで我慢の限界、もうお仕舞と“戦力外通告”をしたい」と。
ここまでなら「犬も食わない夫婦喧嘩」止まりかもしれません。しかし、育児や介護をめぐる困難と仕事を含むストレスが自宅に渦巻くようになると、家族の中の力関係で劣位にある人(子ども、障害のある人、高齢者、女性など)に対して、やり場のないネガティヴな感情が暴力として吐き出されてしまうリスクは確実に高くなると考えるべきです。
このように考えてくると、少なくとも二つの課題が見えてきます。一つは、在宅生活を基本に通所・訪問系のサービスを利用しているケースでは、居所が「家族の職場」に変化した点を考慮する必要が生じています。
これは、従来の「自営業」ではありません。これまでの自営業の多くは、自宅兼店舗にみられるように、仕事と暮らしの時空間を区別できるような構造を工夫してきました。現在のテレワークは、生活の営みだけを想定した時空間に「仕事が割り込んでいる」事態なのです。
もう一つは、保育サービスや福祉・介護サービスの利用量と利用時間帯の両面で、従来とは全く異なるフレキシブルな対応や支給決定が求められている点です。このことは、保育士や福祉・介護職員の勤務実態にふさわしい抜本的な待遇改善を進めることによって、質の高いマンパワーの拡充を早急に図る必要があります。
さて、8月1日に関東地方もようやく梅雨が明けました。Covid-19の問題から、多くの人は梅雨が明けたからといってカラッとした気分になれないのではないでしょうか。そんな人間をよそ眼に、蝉は賑やかに夏の到来を謳歌しているようです。