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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

第15回全施連全国大会in宮城

 第15回全施連(全国知的障害者施設家族会連合会)全国大会in宮城に講師として参加しました。

第15回全施連全国大会in宮城

 大勢の参加者とともに、『地域共生ホーム-知的障害のある人のこれからの住まいと暮らし』(中央法規出版)の中身を確かめ、これからの取り組みの共通基盤を作る営みに努める大会でした。

 この本は、当事者・家族と支援者・事業者が協働して、知的障害のある人たちのこれからの住まいと暮らしを作るための理論的で実践的な基盤を提供しています。

 ここでは、障害者支援施設とグループホームのこれまでのあり方を決して是認していません。むしろ、抜本的に改善すべき課題のあることを明らかにしています。その改善は、生活支援の領域への市場原理の侵襲を排除し、公共性を担保した制度と実践の双方に、個別的で全面的な拡充を図る内容を持たなければなりません。

 だからといって、障害者支援施設とグループホームを否定しているわけでもありません。ただし、障害者支援施設はダメでグループホームなら「地域生活」だとする、根本的に誤った「二択」の政策とイデオロギー(虚偽の観念)は徹底して批判の対象に据えています。

 肝心なことは、障害者権利条約の締約国にふさわしい住まいと暮らしのあり方を明確にした上で、それを実現するための政策と実践を積み上げていくことです。

 障害者のグループホームや放課後デイサービスを「高収益」で投資資金の「早期回収」の見込める「社会貢献型ビジネス」と宣伝している企業があります。これらの宣伝文句のどこにも、障害のある人の支援と人権擁護には、「高度な専門性」が必要不可欠であると説明する内容はありません。無責任極まりありません。

 実際、営利セクターが実施するグループホームや放課後デイサービスにおいては、不適切な支援または虐待事案が発生しています。たとえば、先の9月26日に滋賀県大津市は、虐待が認定された指定放課後デイサービスとそれを運営する株式会社に対し、業務停止処分を行っています。

 ある政令市の虐待防止担当の職員は、「異業種からの参入組の放課後デイサービスとグループホームの事業者には、つける薬がない」「『やっちゃいけないことをするから、叩いたり、大声で叱ることのどこに問題があるのですか』と素人丸出しの開き直りをしてくる」と言います。

 グループホームの場合は、賃貸アパート・マンションの延長線上でのビジネスです。障害のある人の支援には、定型発達の延長線上では対応することのできない=素人の経験値ではとても対応することのできない支援課題のあることを、参入当初からほとんど理解する能力も志向性も欠如しています。これは、世話人を「普通のおばさん」でいいとしてきた弊害です。

 それでは、障害のある人の生活の中で支援が必要になった場合、どのように対応するのでしょうか。障害のある人が「グループホーム物件の一部損壊」や、他の入居者とのトラブルや他害行為の「迷惑事案」が発生すれば、「退去しなければならない」契約にしておけばいいのです。

 これで社会福祉法にもとづく「支援」だと言えるのでしょうか。断じて社会貢献なんて代物でもない。実際、このようなグループホームを転々としなければならなくなっている自閉症スペクトラムと知的障害をあわせ持つ方の事例を複数知っています。

 このような問題が発生するような事業者でも、現行制度における指定基準の形式要件はパスできるのです。この点にこそ、「規制緩和」に由来する人権侵害の根本問題があります。

 バス事業の規制緩和がもたらした新規参入事業者は、数々のバス事故を発生させ、多数の死傷者が出ました。結局、規制そのものを見直して、事業の用件を厳しくするほか事態を改善する手立てはなかったのです。

 つまり、高速バスや貸し切りバスへの参入を規制緩和して、「競争」をもたらしたことが、事故による死傷者を出すところまでに、サービスの質を徹底的に破壊したのです。バスの経営会社は、実際のバス運行する下請け事業者に「安い業務委託料」で丸投げすることも横行していました。

 そこで、バスの運転手の労働条件の悪化が進み、睡眠と休息の不足に起因する「居眠り運転」「脇見運転」が重大事故を招いた事実を正視する必要があります。

 いたずらに現行制度を批判しているのでは決してありません。障害福祉サービスへの新たな参入に必要な要件を厳しくしなければ、支援現場に現在進行しつつある不適切な支援又は虐待事案の増大に歯止めがかからなくなる問題を正視しているのです。それは、過剰な規制緩和を推し進めたバス事業が多数の犠牲者を出した問題構造と近似しています。

台風19号の去った後の荒川-治水橋の上から

 さて、これまでの常識が通用しない猛烈な台風19号が日本列島を襲いました。私の居住する川越でも入間川水系が氾濫して大きな被害が出ました。荒川の氾濫も、危機一髪のところまで迫った事実には戦慄を覚えます。

 先の台風15号で発生した甚大な被害や、今回の台風で千曲川や多摩川が氾濫した事実を前にすると、これまでの経験値をはるかに超える台風被害が到来するステージに、地球規模の気候が進行した感を抱かざるを得ません。

 このような人類が直面する破滅的な危機は、言うまでもなく地球規模の環境破壊であり、温暖化の進行に起因しています。人間自身の活動が招いた危機に他なりません。

 この危機を克服するためのメッセージを国連気候行動サミットで演説したスウェーデンのグレタさんに対し、アメリカとロシアの政治指導者は、それぞれ陳腐な冷笑と説教で応じました。

 大国の政治指導者の奸智が結局はまかり通るこれまでの常識は、もはや通用しない地球のステージに入っているという「世界の複雑さを教えてやる人」がいるのでしょう。