宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
なぜ変わらないのか?
初の民間人閣僚として経済企画庁長官をお務めになった高原須美子さんは、『女は三度老いを生きる』(海竜社)という著作を1981年に出版されています。
女性が三度老いを生きるとは、確か、次のような内容だったでしょう。一度目は、自分または夫の両親の老いと看取り、二度目は夫の老いと看取り、そして、三度目は自分自身の老いと看取りです。
日本の女性は、家庭の中で子育てだけでなく、高齢者の介護と最期の看取りにも責任を背負わされていることへの問題指摘は、40年近く前からされていたことが分かります。
女性の年齢と労働力率の関係は、子育てにかかわって「M型就労」を描くことはしばしば指摘されてきました。学校卒業後に就職した職場は、子どもの妊娠・出産を機に退職し、子育てと家事を中心とする時代を経て、子どもがある程度大きくなって手を離れた段階で、もう一度働きだすという女性の働き方のことです。
これと同様に、高齢者介護を担わなければならない事態になったことを機に、女性が離職する、または雇用形態を変更して短時間就労に移行する実態が、1980年代後半にはそこかしこで指摘されていた問題だったと記憶しています。
今日では介護保険制度があるものの、連日のように高齢者の介護や看取りをめぐる何らかの記事や「悩み」が報じられています。インターネットで「介護」「悩み」の二語を入れて検索をかけてみると、介護をめぐる困難と悩みに関する情報がざくざくと出てきます。
高齢者と介護をめぐるネガティヴなイメージが社会に蔓延する事態に、抜本的な手立てを講じる必要はないのでしょうか。人の「生」が老いと介護の問題をめぐって肯定的に受けとめられていないことは、人間の存在そのものへの肯定感が喪失されている点でまことに深刻だと言わなければならないからです。
でも、今日のインターネットの情報やマスコミ報道が事実をどこまで正確に表しているのかも疑わしい。そこで、「介護の状況」を明らかにしている厚労省の「平成28年国民生活基礎調査」を覗いてみることにしました。あっ、この統計は信じていいのか…、については不問にします。
まず、驚くのは、主な介護者の状況です(以下の図は、同調査より抜粋。図35、36)。
主な介護者が「事業者」というのはわずか13.0%にとどまり、「不詳」を除いた残りは、「同居の家族」(58.7%)と「別居の家族」(12.2%)となっています。そして、主な介護者の「同居の家族」の内訳を見ると、2/3が女性となっています。
介護保険が当初声高に叫んでいた「介護の社会化」は進んでおらず、女性に偏った介護負担も基本的には変化していません。
介護時間が「ほとんど終日」の介護者と要介護者からみた続柄に係る状況(図39)をみると、介護者が女性であるのは全体の7割を超えています。平成28年でみると介護者である女性の、介護をされている人から見た続柄は、「配偶者(夫の介護をしている)」(35.7%)、「子(自分の両親の介護をしている)」(20.9%)、「子の配偶者(夫の両親の介護をしている)」(11.9%)です。
つまり、「女は三度老いを生きる」実態は、介護保険制度が施行されて以降、基本的には何も変わっていないのでしょうか? とくに、介護が「ほとんど終日」の介護者は、稼働収入を得ることはできませんから、この点でも深刻な事態が続いているということになります。
2)平成28年の数値は、熊本県を除いたものである。
そこで、同居家族として主な介護者である人の悩みやストレスの原因を見ると、「家族の病気や介護」「自分の病気や介護」と家族と自分の健康に関する悩みが大きく、次いで「家族との人間関係」「自由にできる時間がない」と並んで「収入・家計・借金等」と「自分の仕事」が出てきます。
介護をめぐってお金のことが悩みとストレスの要因になっている問題点は、インターネットのサイト「みんなの介護」においても指摘しています。
介護をめぐってお金の問題が悩みやストレスの原因である問題は、要介護者を経済的利害や経済的価値で評価してしまう傾きを発生させかねません。簡単に言えば、「地獄の沙汰も金次第」を家族内部に醸成することによって、介護を通じた家族相互の慈しみ合う関係が破壊されていく心配が生まれます。虐待の温床に転じかねない問題です。
この間、仕事の都合から、普段はあまり立ち入らない高齢者介護のことを調べているのですが、いささか呆然としてしまいます。このような事態が続いたままで本当にいいのでしょうか? 国民は税金と社会保険料を負担しているのですから、「女は三度老いを生きる」事態が、今日なお抜本的には改善しないことの説明をきちんとすべきだと思います。
さて、先日訪れた長崎では、ちゃんぽん発祥の店である四海楼のちゃんぽんと皿うどんに、九十九島の牡蠣を頂戴しました。九十九島の牡蠣は、ちょっと小ぶりですが濃厚な旨みが実にたまらない!