宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
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- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
連携による支援は進んできたのか(3)
昨日まで、障害のある人の地域支援に係わる研究会に参加してきました。そこで、あるベテランの支援者から、「地域連携のシステムの核には障害者支援施設を据えることが重要だ」という提起がありました。
障害福祉サービスにおいて、社会福祉法人独占である第1種社会福祉事業は障害者支援施設だけです。第2種社会福祉事業は、営利セクターを含めた多様な事業主体がすでに参入しています。
居宅介護や移動支援に係わるサービスの大部分は、介護保険サービスと障害者の支援サービスを兼ねている事業所で、この領域ではとくに多様な事業主体が参入しています。
すると、多様なセクターが参入している地域連携のシステムと市民を含めたネットワークづくりに、公共性をどのように担保するのかという課題が浮上します。
地域の支援サービスに新たに参入してきた一部のNPO法人や営利セクターの中には、専門性に欠ける質の低いサービスしか提供することのできないところがあります。放課後デイやグループホームについては、不適切な支援と虐待にかかわる自治体の改善指導が目立ちます。
さらに、今日の多様な事業者は、あからさまな利益誘導はしない(していないことになっている)にせよ、相談や居宅サービスを通じて「おいしいお客さん」を巧妙に探索することはむしろ「スタンダード」な日常だと言っていいでしょう。
営利目的に固執する悪辣な一部の事業者を除くと、多様なセクターの事業者の参入が、即、サービスの質の劣化を招くわけではありません。契約に基づくサービスの利用という仕組みが利用者を利する形で機能すれば、サービスの質を担保することもできるでしょう。
ところが、サービス供給が量的に不足している場合、事業者間の競争は働くことなく「利用者は事業者の言いなり」にならざるを得ない問題があります。その上、複数のサービス利用の際に問われる地域支援システムの公共性については、まったく保障の限りではありません。
複数のサービス事業所を展開して収益の確保を第一に考える事業体は、「おいしいお客さん」をできるだけ「囲い込もう」とする一方で、「処遇困難ケース」に「支払い能力の低いお客さん」や「要望や文句の多いお客さん」は公共性を担保しようと努力している「お人好し」の事業所にまわされる傾向を強めていきます。
一言で言えば、地域支援システムの「私化」です。利用者第一の利益と人権の擁護するための公共性が支援サービスの原理原則から抜け落ちてしまい、事業者の利益確保が第一にされていく傾向が強まります。
そこで、地域支援システム全体の公共性をどのようにして担保するかという課題が浮上するのです。冒頭で紹介した「地域連携のシステムの核には障害者支援施設を据えることが重要だ」という問題提起は、このような事情を踏まえてのものでした。
障害者支援施設を運営する事業体は社会福祉法人だけですから、すべての地域支援サービスにおける公共性を創る社会的使命を自覚している法人であれば、そこが運営する障害者支援施設こそ連携支援の核に置かれるべきだという問題提起です。
多くの障害者支援施設は、一定の専門性があり、多様なニーズに対応する相談支援やショート・ステイ等を実施していますから、システム内にある多種多様なサービスを利用者のニーズや要望に結びつけるためのマネジメント機能も期待できるでしょう。
もちろん、社会福祉法人とその障害者支援施設のすべてが公共性を追求しているわけではありません。現在の社会福祉法人の中には、専門性が低く、実質的に「化石法人」か「営利法人」と変わらないところまで存在します。
まず、「化石」のような社会福祉法人です。措置費制度の時代の「ムラ社会」的な法人運営のまま、同族経営や市町村からの天下りの続いているところです。「家業法人」と「役人双六のあがり法人」です。
次に、異業種の営利セクターが社会福祉法人を設立するか、社会福祉法人を「買収」してサービスに参入した法人です。「社会福祉法人の衣をかぶった企業」です。
もう一つは、平成29年の社会福祉法の改正を機に「カルロス・ゴーンなるものを目指す法人理事長」の専横によって、「私企業化」に突き進んだ社会福祉法人があります。「理事長の営利私物化を希求する本性をあらわにした社会福祉法人」です。
このようにみてくると、地域支援システムの公共性を担保するためには、社会福祉法人の公共性をいかにして担保するのかという課題が一体のものとして問われる必要のあることが分かります。
そして、地方自治体には、福祉サービスの事業体と地域支援システムの公共性を確保する課題に即して、地方自治体がどのような地域福祉計画の策定と監査指導の実施等を自覚しているかが問われなければならない。この点は、社会福祉法における市町村の責任です。
さて、梅の花言葉には、さまざまな意味があります。「高貴」「高潔」「忠実」「不屈・忍耐」などで、ピンクの梅の花の場合はとくに「清らかさ」という意味があると言われています。
統計不正に手を染めた方々や暴言を吐いた政治家諸氏は、梅の花を前にして自らの「けがれ」を反省してはいかがでしょうか。でも、統計不正は一部の人に責任があるというより、仕事量に対応できないまでの「定員削減」を公務の世界に強いてきた長年にわたる構造改革のツケでしょう。