メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

虐待防止のための組織的取り組みとは

 全国知的障害福祉関係職員研究大会に講師・助言者として参加しました。

第7分科会の会場

 私の参加した第7分科会「障害者施設における虐待の根絶に向けて」は、220名の事前申込者に加えて、数十人の当日参加者がありました。この分科会に対する関心の高さを示しています。

 この分科会は、それぞれの施設・社会福祉法人における虐待防止の取り組みにとどまらず、地域全体でどのように取り組みを進めるのかを明らかにすることを一つの重要な課題に据えています。日本知的障害者福祉協会の組織単位で言えば、「地方会」の取り組みです。

 北海道、福島、鹿児島及び山口の各地方会からまことに有意義な取り組みの報告がありました。

 施設従事者等による虐待への取り組みは遅れています。2016年1月12日に開催された障害者虐待防止研究セミナーの中で、弁護士の佐藤彰一さんは、施設従事者等による虐待について、次のように厳しい指摘をしています。

 養護者による虐待と使用者による虐待については、障害者虐待防止法の施行によって行政による関与の積極化が認められるのだが、施設従事者等による虐待は取り組みがなかなか進んでいない(http://www.nozomi.go.jp/investigation/pdf/newsletter/nl048.pdf)。

 佐藤彰一さんが検証委員長を務められた千葉県袖ケ浦の虐待死亡事件の発生した施設では、虐待防止委員会、第三者苦情委員会が設置され、ヒヤリハット検討会まで開催されていたにもかかわらず、その下では深刻な虐待行為が継続的に行われていたのです。

 その他、秋田県湯沢市皆瀬更生園、高知県の南海学園、山口県の大藤園等の虐待事案を通して、施設は虐待を通報しない、通報を受ける行政では法令違反や不作為があるなど、虐待防止法のスキームそのものが機能していない問題を指摘しました。

 それぞれの施設・法人に閉じられた虐待防止の取り組みだけでは、虐待防止につながらないことを多くの施設従事者等による虐待事案が示しています。私が検証委員会活動に取り組んだ障害者施設の虐待事案でもまったくその通りでした。

 法制度上の「障害者支援施設」としては同じであるとしても、実態は千差万別です。開所日数を365日にして、職員の手が必要となる朝と夕方・夜の時間帯に職員配置に厚みを持たしながら、限られた経営資源の下で支援サービスの最適化を追求している施設も多数あります。

 しかし、それとは正反対の施設も山のようにあります。たとえば、次のようです。

  • ・天下りや一族支配の下で施設・法人全体が自浄能力をなくしている施設
  • ・外部に閉じられた環境の下で幹部職員と支援者の「思い込み」が強くなっている施設
  • ・専門的なスキルが不十分であるのに「強度行動障害」や「重度者」の受け入れを進めて、事業者報酬の最大化をはかろうとする施設
  • ・職員の手が必要な朝と夕方・夜の時間帯に職員を張り付けないことによって、職員の不適切な支援や力で押し切る関与が慢性化している施設

 今回の分科会では、地方会の報告と討論から、これからの取り組みの枠組みが見えてきたように思います。標準化されたチェックリストによる各施設・法人の自己点検と第三者機関による外部点検を組み合わせてマネジメントサイクルをつくり、このサイクルの基軸に利用者への意思決定支援(意思形成・意思決定・意思実現)を据えるのです。

 つまり、虐待防止の実現には、利用者の意思を土台にして施設・社会福祉法人の経営・運営を組み立て、営利主義に基づくサービスとは一線を画する支援サービスの公共性を地域に拡充していけるかどうかが問われているのです。

 このような観点からは、「利用者のご意見を大切にしています」などという通り一遍の取り組みはもはや時代遅れです。利用者の権利擁護と支援サービスの公共性を担保しているかどうかを点検する具体的な視点は、次の通りです。

  • ・理事会の議案が利用者への意思決定支援を議論の出発点にして作られているのか。
  • ・評議員会は地域や第三者の視点から理事会を点検できるような評議員で構成されているのか、評議員会は利用者の意思決定支援を土台にして討議と議決をしているのか。
  • ・利用者の自治に立脚した法人経営・運営への参画が、システムとして位置づいているのか。

 これらが「タテマエ」ではなく、社会福祉法人・施設における経営と運営の原則的方針に座らない場合、社会福祉法人は自らの存在理由を喪失していくでしょう。