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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

裁判所、お前もか!

 中央省庁の障害者雇用水増し問題で、厚労省は8月28日、調査結果を発表しました。国の行政機関の8割に当たる27機関で、3,460人の水増しがあり、雇用率の実際は1.19%と法定雇用率に遠く及ばないことが明らかになりました。

 その上、裁判所においては300人を超える水増しが、衆議院・参議院・国会図書館でも水増しがそそれぞれあったと報じられています。

 ここに県警や教育委員会を含む自治体の水増しが加わるのですから、公的機関のほとんどが水増しをしていたという国家機構の構造的問題です。未だに「規定の解釈に齟齬があった」などと弁明する「担当者」がいるようですが、説明責任を果たしているとは言えず、説得力は丸でありません。

 障害のある人の法定雇用の仕組みは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の前身である「身体障害者雇用促進法」が1975年に改正され、翌76年の同法施行以降、法定雇用率が義務化されたのがはじまりです。

 その後、1987年の「国連・障害者の10年」中間年に、保護雇用制度については「わが国にはなじまない」と否定した上で雇用率の対象に知的障害者を含め、2014年の障害者権利条約の批准向けた国内法の整備の中で、精神障害も含めた障害者雇用促進法に拡充された制度です。この42年間における法定雇用率と対象規定の拡充は、障害のある人たちの組織的な努力と運動が積み重ねられてこその所産です。

 ここで、水増しの目立つところをみると次のようです。

行政機関名A報告数実雇用数 B水増し数(B/A×100)
国税庁1411.5人389人 1022.5(72.4%)
国土交通省890286.5 603.5(67.8)
法務省802262.5 539.5(67.3)
防衛省516201 315 (61.0)
財務省264.5 94.5 170 (64.3)
農林省364195.5 168.5 (46.3)
外務省15025 125 (83.3)
経済産業省153.552 101.5 (66.1)
総務省11040 70  (63.6)

 外務省の83.3.%の水増し率を筆頭に、国税庁が72.4%と続き、国土交通省・法務省・防衛省・財務省・経産省・総務省と国家の中枢ともいうべき行政機関が共通に6割の水増し率です。どこもかしこも、ひどいを通り越して呆れてしまうほどの実態ですが、少なくとも、次の確定申告の時期は、各地の税務署がいささか心配になりますね。

 このような水増しが、1976年から42年間、担当者間で引き継がれて続いてきたというのです。国税庁に法務省も裁判所も42年間水増しをやり続けてきたというのですから、法治国家の基盤は崩れています。国民が法を守らなくても、42年間は目をつぶってくれるのですか?

 雇用率に見合う従業員を雇っていない場合、従業員1人当たり月額5万円の納付金(罰金ではありません)を納めることが民間企業には課されており、公的機関についても納付金を義務づけるべきだという意見が出てきたようですね。

 「共生社会の実現に率先した役割を果たすべき公的機関」に、民間企業と同様の納付金制度を適用することには反対です。法定雇用を守らなかった行政職員1人当たり、フルタイムの最低賃金月額に社会保険料を加えた額を目安にした月額20万円程度の「罰金」を公的機関に「科す」制度を創設するのが妥当です。「悪質な水増し」については、担当者と幹部職員に対する刑事罰を加えることも検討課題でしょう。

 これほど大規模な水増しには、組織犯罪に通底する構造的問題があるはずです。この問題の真実を明らかにするためには、厚労省が選定した「第三者委員」に委ねるかたちでは、とても信頼性を担保することはできません。たとえば、すべての公的機関から独立した組織である日本弁護士連合会に、徹底した問題の解明を委ねるべきです。


もうすぐ稲刈

 さて、異常な天候の続いた夏は、暦の上では過ぎ去ろうとしています。温暖化に伴う気温の上昇が続けば、九州南部で桜の花が咲かず、本州でリンゴをはじめ、最悪の場合には米作にも多大な困難がでてくると言われています。毎年、9月になると全国各地で目にする稲穂を垂らす田んぼの光景。この光景が見れなくなる時代が訪れようとしているのかも知れません。