宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
上尾の熱中症死亡事件から1年
埼玉県上尾市の障害者支援施設コスモス・アースで、利用者が送迎用車両の中に6時間放置され熱中症により死亡した事件の発生(2017年7月13日)から1年が経ちました。お亡くなりになった利用者とご家族の皆さまには、改めてご冥福をお祈り申し上げます。
この事件については、事件直後にブログで私の疑問点を指摘しています。その後の報道については、次を参照されるといいでしょう。
- https://www.sankei.com/premium/news/171108/prm1711080006-n1.html
- https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180712-00010010-saitama-l11
この事件は、職員3人が業務上過失致死容疑で書類送検され、施設側の立件は見送られました。また、この死亡事件の発生した当日に75歳の理事長兼施設長が女性職員にわいせつ行為をしていた事件では、強制わいせつ罪での有罪判決を受けています。
刑事事件としての成り行きはともかく、先週のブログで指摘したように、わが国の司法に障害のある人の権利擁護に資する教訓を明らかにすることを期待することはあまりできません。すると、埼玉県や上尾市が、この事案が発生した構造的問題についての検証活動を実施しているのかが、行政の責任として問われるのは当然でしょう。
この障害者支援施設の理事長兼施設長は、埼玉県の元職員です。先の産経新聞の報道によると、早稲田大学大学院出身で県庁に入り、健康福祉部長を務めて退職後、私立大学の講師等を経て、「環境と福祉」を謳うNPO法人コスモス・アースを設立しています。
この事件の発生した2017年の4月の春の叙勲で、瑞宝双光章を受けています。勲章といっても、学校長や公務員を務めたことに対する型どおりのものですから、目くじらを立てることもないでしょう。
一部の新聞報道には「福祉のプロ」とありますが、冗談じゃありません。障害者支援については「ただの素人」です。元県職員であった「社会的信用」をテコにして、退職後の「自分の小城」を築いただけのような印象を抱かせます。
一年前の私のブログでも指摘したように、この障害者支援施設の経営と管理運営には山のような疑問点がありました。障害者支援事業所としての指定を行政から受けるための要件を満たしていたのです。それでも、現場の実態としては、途方もなく杜撰な運営の下で、いい加減さ極まる「支援」がまかり通っているのは、どうしてなのか?
障害のある人の困難とニーズに対応する支援の専門性を客観的な業績で提示することのできない人物が、どうして障害者支援施設の長になれるのか。学校長は豊富な授業経験と公開研究授業をしていますし、病院長なら治療実績と論文の何本かは持っているのが普通です。
それが社会福祉になると、「支援に関する専門性」を客観的に示す業績がまったく問われないまま、施設長や事業所の長になることができるのです。この単純な問題一つとっても、利用者とそのご家族には「嘘だろ」と叫びたくなるほど深刻な現実です。
施設長や事業所の長は、支援に関する専門性を制度上の要件にしていないのですから、幹部職員の事例研究や幹部職員の主導するケースカンファレンスに基づいて支援を質的に充実にさせていくことや、適切なスーパービジョンが実施される営みを期待することはできないのです。
私の友人に言わせると、支援実務の専門性についていい加減なところほど、法人理念や理事長・施設長の福祉理念が大言壮語される傾向にあるという点に、障害者支援施設・事業所の真骨頂があると。
私の限られた経験でも、自分たちが積み重ねてきた支援の質的な充実・発展について、根拠をもって具体的に語る理事長・施設長の講演を聞いたことはほとんどありません。語られるのは、支援条件の問題点や理念がほとんどです。
このコスモス・アースの法人理念は「自然環境を守り、障害者が当たり前に暮らせる地域づくり」とあり、実態は全くの空疎な虚言だったことが事件後に明らかになります。障害のある人とご家族の充実した地域生活への願いと、とんでもない障害者支援施設が制度的に放置されるというとてつもない乖離を放置したままでいいのでしょうか。
さて、毎日猛暑が続いています。成虫になると何も食べることのできないまま短い生涯を終えるオオミズアオにとって、この暑さはいかにも過酷に思えます。路傍で見つけたオオミズアオは、羽もいささか傷んでいて、最後のときが近いようです。
気温の高さで有名な埼玉県熊谷の、7月と8月の最高気温が35℃以上になる猛暑日の日数をちょっと調べてみました。1961年は2日、65年は4日、70年8日であるのに対し、2010年は32日、15年は20日、17年は11日と猛暑日が著しく増大していることが分かります。
気象予報士がたれ流す「平均気温と比較すると」という言葉は、現在の猛暑の実感とはとてつもなく乖離しています。猛暑日の日数で見ると、夏の最高気温は5℃近く上昇していると実感するのが、暮らしの中の気温ではないでしょうか。