宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
「介護卒業」に?
田辺さんの描写に心底納得するものがあります。「高齢者にはこれがいいのだ」という予断や決めつけは、支援のあり方として間違っています。ケアプランとは、それぞれの高齢者のニーズが議論の出発点ではないのですか?
もう一つの疑問は、要支援者の4割が「介護卒業」することは取り上げるのですが、なぜか「卒業できない6割の要支援者」の実態を明らかにしようとはしないのです。介護予防や「介護卒業」に関する取り組みの紹介の多くは、「卒業できない人」のことを取り上げません。心身機能の回復に向けたケアプランに徹底した上で、6割は失敗しているとすれば、このことの方が大問題でしょう。
「入学式」はなく「卒業式」だけが賑々しく取り組まれるのは、「卒業」することだけに価値づけがなされているからです。この価値づけは、「介護卒業」が介護保険の財政負担の軽減に直結することに由来します。
このようにして「介護卒業」にもっぱら価値を置いて光を当てることは、「いつまでも卒業できない人」に対してはネガティヴな見方を強めるほかないのではないでしょうか。つまり、障害のある人に対する差別と特別視を助長する「介護予防」の取り組みになりかねない問題点を含んでいると考えるのです。
私たちは、「病気のままでいたい」「ずっと要介護状態でいたい」と望むことはまずありません。健康であることの価値を認め、心身機能が高い自由度を保持することを望んでいるからです。しかし、私たちは同時に、「病人をいたわりたい」「障害のある人と優しさを分かち合いたい」とも願っています。これらの総体が、「健康で文化的な」価値ではないでしょうか。
このような当たり前の、両義的な価値のかけがえなさが等しく政策と実践に反映されて然るべきでしょう。そうでなければ、「障害の受容」は成立基盤を失うからです。
さて、先日にさいたま市大宮にある盆栽美術館を訪ね、サツキを一鉢買ってきました。さいたま市が盆栽美術館をつくると発表したときは、「この財政難のご時世に盆栽はないだろう」と思いましたが、とんでもない間違いだったことに気づきました。
盆栽祭りの最中で、盆栽美術館とその周辺の盆栽園は、大勢の人であふれていました。とくに、ヨーロッパの人たち(少なくとも私はドイツ語とイタリア語と英語を会場で耳にしました)と女性や若い人たちが多かったですね。盆栽は、クールジャパンの目玉の一つとして国際的にも注目され、輸出が伸びています。かつては年寄りのたしなみ的な傾向が強かった盆栽は、幅広い人たちに愛好されるようになっています。
さいたま市にお越しの節は、鉄道博物館とともに盆栽美術館にもぜひお立ち寄りください。一見の価値ありです。