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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

「介護卒業」に?

 5月15日に地域医療・介護確保法案が衆議院で可決されました。要支援者への予防給付の中で訪問介護と通所介護を市町村の地域支援事業へ移すほか、認知症の初期集中支援も同事業に加えることとなっています。

 この法律案の概要の中から介護保険に関する他の部分を紹介すると、特別養護老人ホームの入所要件を要介護3以上に厳格化すること、低所得者の保険料軽減策を拡充する一方で年収280万円以上の高齢者は介護保険サービスの自己負担を1割から2割に引きあげること、施設入所者のうち預貯金が単身で1000万円以上の人は補足給付(食費・居住費の補助)の対象から外すことなどが含まれています。

 さて、冒頭で述べた要支援者のサービスを市町村事業に移管することには、さまざまな問題の指摘があります。財政や人材の状況に大きな開きのある市町村に介護予防事業を移し、ここにさらに認知症の初期集中支援を加えれば、今以上に市町村による格差が拡大し、要介護度の重度化の進む地域が出てくるのではないかと懸念されるのです。

 前回のブログで指摘したように、わが国の市町村の過半数が2040年に向かって「消滅可能性市町村」にある事態を正視したとき、介護予防や初期認知症への対応を市町村に移管することのメリットやリアリティがはたしてあるのでしょうか。

 このことをめぐる報道の中で、NHKクローズアップ現代は12日に埼玉県和光市の「介護卒業」を取り上げていました。「介護卒業」の取り組み自体は何も新しいものではなく、東京都稲城市等が政策推進のモデルとして以前から取り上げられてきたものに過ぎません。

 この番組では、和光市で要介護認定を受けた人たちへのケアプランについて「自立を促すものか」(NHKの表現のままです)どうかをチェックし、身体機能を回復させるためのプログラムに徹底すると、「要支援者」のおよそ4割が介護サービスからの「卒業」を迎えるということを映像とともに取り上げていました。

 「介護卒業」については、かねてからさまざまな疑問を抱いています。まず、「入学式」のない「卒業式」というやり方は、やくざの「出所祝い」と同程度に下品で、高齢者の尊厳を損なう取り組み方ではないかと考えます。つまり、高齢者の個別の事情やニーズを超えて、サービスを利用する前段階から「サービスを使わないように自立する」方向性が決められている問題点です。

 田辺聖子さんの小説『姥勝手』のシリーズの中で、次のようなくだりがあったことを覚えています。高齢女性の主人公は、地域の敬老の日の会に招かれ、子どもたちがお年寄りを前に歌い、最後に声をそろえて「元気でもっと長生きしてください」などと言うのはやめにしてほしい。こんな行事は、高齢者に対する特別視の所産であって、私は今でも現役の女の端くれを自負しているのだから、敬老の日にはジャニーズ系のグループを呼んでほしいのだ、と。