宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
上尾の事件から
埼玉県上尾市の障害者支援施設「コスモス・アース」の送迎車内で、19歳の利用者男性が約6時間半放置され、熱中症とみられる症状で死亡した事件が発生しました。
新聞報道によると(埼玉新聞7月16日付朝刊)、この施設では利用者の出欠確認が、作業開始前の午前9時過ぎ、10時半からの休憩時間、正午の昼食時、午後2時半からの休憩時間に「行われていた」といいます。施設到着時と退所時には、連絡帳の受け渡しもあるため、これらの出欠確認の機会はすべて生かされないままでした。
施設に到着したときの降車は、通常、「複数の職員で行うことになっている」ところを、事件の発生した朝は73歳の運転手1人で行っていたことが分かっています。結局、閉所間際の午後4時近くに、この運転手が車内座席で倒れている利用者を見つけたと言います。
知的障害と自閉症のある男性利用者は、自力歩行は可能で「介助は必要のない状態」ですが、治療の必要から朝に睡眠導入剤を服薬して送迎車に乗るため、毎日車内では寝ている様子が確認されていたといいます。つまり、降車時の確認点検はとくに注意すべき状態にあったといえるでしょう。
施設の管理者である75歳のOさんは、「職員の連携が機能しなかった」と反省の弁を述べています。が、1日に5回の出欠確認を毎日必ず実施し、送迎車からの降車を複数職員体制で実施して確認することを日常の管理運営で注意してきたのであれば、このような初歩的な事故は絶対に発生しなかったはずです。
この障害者支援施設は「生活介護」事業所です。WAM NETでこの事業の概要を検索してみると次のようです。
- ・法人:特定非営利法人コスモス・アース
- ・月曜日~金曜日の9時00分~16時00分を営業日とし、利用定員40人
- ・生活介護事業所
- ・生活支援員は常勤1人と非常勤13人(常勤換算6.3人)、サービス管理責任者は兼務常勤1人、医師と看護師は非常勤各1人、その他が非常勤5人(常勤換算2.2人)
コスモス・アースのホームページと内閣府NPOホームページから検索した特定NPO法人コスモス・アースの情報(https://www.npo-homepage.go.jp/npoportal/detail/011090010)からさらにわかることの一部をご紹介しておきます。
法人理事長と施設長は同一人物で、生活介護事業所でありながら、NPO法人の活動目的については、「自然環境を守り、障害者が当たり前に暮らせる地域づくり」を目指し、障害福祉サービス事業所「コスモス・アース」の取り組みは、(1)農作物の栽培、収穫作業、(2)毛織等手工芸品の制作作業、(3)紙等のリサイクルの分別作業を行うとともに、資源物(紙等)回収システムの拠点づくりを行うとあります。
内閣府NPOホームページにあるこの法人の平成28年度活動計算書によると、利用者工賃の年総額は1,275,480円ですから、利用者定員40人で単純に割ると一人当たりの年額が約32,000円程度で、月額に直すと2,670円となります。
あくまでも生活介護の日中活動に過ぎない取り組みが、あたかも「作業」の取り組みのように宣伝されていることに強い疑問を抱きます。このように取り組みの実態にそぐわない活動をホームページ上で宣伝することは、果たして許されることなのでしょうか。
そして、この障害福祉サービス事業には常勤職員が2名しかおらず、その1人は75歳の理事長兼施設管理者のOさんでしょう。13人の非常勤職員が交代で入っていますから、職員の連携には普段から管理運営上の工夫を重ねて、リスクマネジメントの取り組みを含めた事故防止への注意義務がありました。
これまでマスコミ報道に登場した重症度の高い虐待事案の発生した障害者支援施設・障害福祉サービス事業所については、その都度、公開されている情報に目を通すようにしています。結論からいうと、どこもかしこも本当の実態に接近することは難しい。いうなら「接近困難な事業所」です(笑)
とくに、実際の支援内容や地域とともに取り組んでいる内容については、真っ赤な嘘が多いのも特徴です。ある障害者支援施設では、やったこともない「自分たちの支援事例にもとづく虐待防止研修」を頻繁に実施していると宣伝していたことさえあるのです。このようなケースはまことに悪質であるため、今後は、何らかの厳しい行政処分が検討されてもいいのではないでしょうか。
特定NPO法人や社会福祉法人は、組織と事業の公共性を実現しやすい制度上のルールはありますが、公共性の実現を担保するまでの絶対的な仕組みがあるものとは考えていません。それは、学校法人や医療法人社団も同様で、これらの組織とその構成員が、公共性を具体的で実務的な形で実現しようと努力を傾けた度合いに応じて、力を発揮できる仕組みです。
理事長と事業所の長が同一人物になって、権力集中による独裁と勝手気ままが進行すれば、「個人商店」化に起因する種々の腐敗と私物化の進行する事例は、山のように見てきました。障害福祉に関する指定施設・事業所については、第三者点検の法的根拠を持たせた「福祉オンブズパーソン」組織による定期的点検と抜き打ち点検が実施できる仕組みを整備する必要があると考えます。
外からは決して知ることのできない内部の問題が放置されることによって、結局は事故や虐待事案等によって利用者の重大な人権侵害が発生してきた教訓を生かす必要があると考えます。「指定」を受けている施設や事業所を利用者と家族がただちには信用できない実態を放置することもまた、障害のある人への重大な人権侵害です。
さて、関東平野の各地では、短時間ではありますが、バケツをひっくり返したような集中豪雨に襲われています。落雷もものすごいですね。雨の合間に散歩に出てみると、ヤマガラに出会いました。この大変な時節にも、雛を育て上げたのかな?