宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
みんなで受けとめて考えよう
二つ目は、「つける薬がない」としか思えない人物が、なぜ幹部職員に登用されていたのかがさっぱり理解できない点です。事なかれ主義の権化のような理事長に施設長をはじめ、自らが体罰問題で懲戒処分を受けた職員が袖ヶ浦福祉センター長になっていました。このセンター長は虐待防止委員会の委員長でありながら、虐待防止の取り組みを何一つしていませんでしたし、職員が虐待防止について発言できない重石にもなっていたと指摘されています。
この虐待防止委員会は、障害者虐待防止法の施行時に国のマニュアルに従って形だけ設けただけの委員会で、「第1回虐待防止委員会」が開催されたのは今回の虐待死亡事件が明らかになった後の、昨年12月26日だというのですから、あきれかえってしまいます。
三つ目は、社会福祉事業団への措置委託から指定管理者制度への変更をめぐって分け入った分析が必要ではないかと思われる点です。「指定管理制度になったから虐待が発生した」というような単純ことを決して言いたいのではありません。社会福祉事業団方式といわれる措置委託制度の時代から連続して引きずってきたままの構造的問題と、指定管理制になって新たに抱えこんだ矛盾の両方が、虐待問題として顕在化したのではないかと推察します。
社会福祉基礎構造改革の進む中で、ある県の社会福祉に関する担当者から次のような話を聞いた事実があります。
「措置制度から契約利用制への移行に伴って、社会福祉事業団の行く末は二つしかないと考えている。一つは、処遇困難ケースへの対応に特化するなどし、特別の施設機能を持たせることによって、県立施設と社会福祉事業団の存続を図ること。もう一つは、通常の社会福祉法人と職員の待遇や配置基準を徐々に横並びにしていって、最終的には安楽死させること。」
今回の虐待死亡事件の発生に係わる構造的問題には、職員・職場の問題と施設・社会福祉事業団における管理運営の問題に加え、経営をめぐる問題もあるのではないでしょうか。念のためにここでも繰り返しますが、指定管理制になったから経営の問題が発生したというような単純な問題指摘をしたいのではないのです。措置制度から利用契約制への移行に伴う新しい経営の実務について、障害領域の社会福祉法人の多くは的確な対応ができなかったのではないか、新しい制度への移行に伴う幹部職員への経営・管理運営の実務研修の不十分さが尾を引いた問題もあるのではないかということです。
今回明るみに出た虐待問題は、施設の閉鎖性に還元できるほど単純な問題ではありません。この事件をきっかけにして明らかにされてきた事実は、多くの業界関係者にとっても「耳を疑う」ようなアナクロさがあるのです。つまり、現代の法制度の下で最低限なすべきことを何一つしていないまでの施設がなぜ出来上がってしまったのか。とても根が深い問題であるように思います。
これを機に、多くの人たちが、当事者や業界関係者にとどまらず、虐待問題について考え、ディスカッションに参加することがとても大切だと思います。虐待は確かにネガティヴな事象です。しかし、春は必ず巡ってきます。虐待問題の克服のプロセスは、暮らしの中の人権のあり方を具体的に明らかにし、新しい型の幸せや親密さに通じる道であると考えます。