宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
4教育大学共同調査結果から
5月12日の朝日新聞朝刊は、公立の小中高の教員を対象とする4大学(北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学)の共同調査結果から、「教員悲鳴 忙しすぎる」と報じています。
朝日新聞に掲載された範囲のデータをまとめたものが表1です。
項目 | 小 | 中 | 高 | |
---|---|---|---|---|
教員の仕事が楽しい | 86 | 82 | 81 | |
授業準備の時間が足りない | 95 | 84 | 78 | |
仕事に追われ生活のゆとりがない | 77 | 75 | 68 | |
部活動・クラブ活動の指導が負担 | 35 | 70 | 60 | |
保護者・地域住民への対応が困難 | 56 | 55 | 40 | |
将来管理職になりたい | 12 | 13 | 7 | |
一教員のまま働きたい | 58 | 56 | 65 | |
とても必要 | 他者と協働する力が | 80 | 79 | 70 |
自分で学ぶ力 | 79 | 74 | 74 | |
あきらめず頑張りぬく力 | 78 | 74 | 66 | |
情報通信技術を使いこなす力 | 29 | 23 | 18 | |
職業にかかわる専門的な知識 | 25 | 26 | 27 | |
物事を批判的にみる力 | 22 | 19 | 27 | |
集団討論・探究活動の授業方法 | 86 | 71 | 51 | |
他教科への関連づけ | 70 | 25 | 21 | |
調べたことの発表 | 64 | 45 | 35 | |
学級定員少人数化に賛成 | 97 | 96 | 95 | |
アクティヴ・ラーニングに賛成 | 93 | 91 | 82 | |
教員免許更新制度に反対 | 83 | 81 | 85 | |
道徳の教科化に反対 | 79 | 76 | 56 | |
6・3・3の学制改革に反対 | 47 | 49 | 57 | |
フリースクールの公認に賛成 | 67 | 63 | 8 |
これによると、多くの教員がやりがいを感じている反面、授業準備に時間をさけず、部活動の指導に負担を感じ、仕事に追われて生活にゆとりがないと回答する割合が著しく高いことが分かります。管理職になることへの忌避感も圧倒的大多数ですね。
OECD編著『図表でみる教育-OECDインディケータ(2015年版)』(522頁、明石書店、2015年)から、教員の総法定勤務時間数に占める授業時間数の割合を作成したものが表2です。
小 | 中 | 高 | ||
---|---|---|---|---|
日本 | 授業時間数 | 736 (38.8) | 608 (32.0) | 513 (27.0) |
総法定勤務時間数 | 1899 | 1899 | 1899 | |
OECD 各国平均 | 授業時間数 | 772 (48.3) | 694 (42.9) | 643 (40.1) |
総法定勤務時間数 | 1600 | 1618 | 1603 |
※その他数字は時間数
OECD各国平均と比べ、わが国の教員は総法定勤務時間数に占める授業時間数の割合は、小中高のすべてにおいて低いことが明らかです。つまり、日本の教員は、学校教育の要である授業よりも「雑務に追われている」実態が垣間見えるのです。大学についての資料は見当たりませんが、わが国の大学の教師もまったく同様だと思います。
しかも、このデータは学校内の勤務時間数の実態ではなく、あくまでも法廷勤務時間数に占める割合を出していますから、授業時間数の割合がもっと低い現実にあることはまず間違いないでしょう。
一方で、教員としての高い専門性を求める教員養成があり、他方では、雑務に追われる学校勤務の現実があるとすると、教員の高い専門性とは、「雑務に追われながらも完璧な授業と指導を実践できる」ことにあるということなのでしょうか?
わが国の教員が、子どもたちに「とても必要な力」と考える内訳をみてみると、「他者と協働する力」「自分で学ぶ力」「あきらめずに頑張りぬく力」という「学校教育的優等生」に必要な力が上位に出てくる反面、「情報通信技術を使いこなす力」「職業にかかわる専門的な知識」「物事を批判的にみる力」という現代社会の現実に照らして必要不可欠な力の低い位置づけについては、どうも気になります。
子どもたちが主体的に学ぶアクティヴ・ラーニングへの賛成が多数を占めているにも関わらず、「物事を批判的にみる力」を重要視しないというのは明らかに矛盾しています。18歳からの選挙権も始まるのですから、情報通信技術を使いこなす力を含めた学校教育の新しい課題があるのではないでしょうか。
教育方法に関する課題意識や実践は、小中高でばらつきがある点も気になります。小学校の教員は「集団討論・探究活動の授業方法」「他教科への関連づけ」「調べたことの発表」のいずれも項目でも、中高教員よりも進んで取り入れているのに対し、高校の教員は従来通りの授業をしている傾向がうかがえます。
わが国では、広い意味で人を支援する職業のほぼすべてが、医療・保健・福祉・教育それぞれの本来の仕事よりも、それを取り巻く雑務に追われている実態にあるのではないでしょうか。OA化の進展が本来の業務への集中に向かう恩恵とはならず、従来にはなかった雑務までを専門職に押しつける道具として機能してきたように思えてなりません。
ICT技術を駆使したOA化の進展が、はたして雑務の省力化につながっているのかどうかについて、一度は厚労省あたりに責任ある実態調査をしていただきたいと強く要望します。