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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

○時間または○分のうちの15秒

 国際連合の人権理事会の下で「意見および表現の自由」の調査を担当する国連特別報告者のデービット・ケイ氏は、先週、日本に報道の自由と独立性に関する重大な脅威があると指摘する警告を発表しました。

 具体的に指摘された点は、放送法第4条、特定機密保護法、そして記者クラブ制度についてです。政府の圧力に屈しやすい排他的な記者クラブ制度は、自己検閲を生んでいるとさえ指摘しています。

 テレビが報道機関だという認識は、かなり以前から、私にはありません。たまには有益な情報と指摘を受けるときもありますが、通常は聞き流す程度のものだと考えています。アナウンサー、コメンテーター、有識者等が並んで画面に登場すると、すべて「ジャーナリズム風芸能人」にしか見えないのです。

 NHKは公共放送だと自称しますが、新しいドラマや番組のためにNHKのあらゆる番組を総動員して「宣伝」のキャンペーンを繰り返します。私は新番組が始まる前に食傷気味になってしまい、ついにドラマを見ることが皆無になりました。このような放送のどこに「公共性」があるのでしょうか?

 熊本・大分にまたがる今回の震災報道を見ていると、次から次へと流される画像や被災者へのインタヴューが、果たして報道として意味があるのか疑わしい思いに駆られます。ヘリコプターまで飛ばして、消費価値の高い画(非日常性、刺激性、煽情性等の要素をもって眼を引いて視聴率を上げることのできる画)を一つでも多く「獲ろう」(撮ろう)とする品性のないハンターのようです。

 自分の専門領域に係る報道に接すると、信用してはならない程度のひどさを痛感します。上っ面を撫でただけの報道、分析の誤った報道、明らかに権力に媚びへつらっている報道など様々で、一度たりとも納得しうる報道に接したことがないのです。すると、自分の専門外の領域の報道も、きっと信用できない内容なのだろうと推察します。

 ときおり、マスコミからコメントを求める取材を受けることがありますが、これが取材なのかと首をひねることもしばしばですね。とくに、2時間近く取材しておいて、コメントとして使うのは、テレビで15秒、新聞で5行となるのを経験すると、自分たちの報道内容を「権威づけするお飾りを探す」ことをこの業界では「取材」というのだろうと思うようになりました。

 秋元波留夫さん(故人、精神科医で東京大学医学部名誉教授)に直接うかがった話があります。精神衛生法を改正して精神保健法を成立施行させるときのNHKの特集番組の取材で、秋元さんは3時間もの取材を受けておきながら、テレビに出てくるのはわずか10秒でした。精神衛生法の問題点については、わが国の精神医学会を代表する歴史的証人である秋元先生の扱い方がこのようにお粗末であることに驚きを禁じえませんでした。

 そこで、異なる専門領域の方との会話が次のようになるのです。
「私は、○○局の取材で、取材1時間で20秒映りましたよ」
「それはすごいですね。私なんかは3時間の取材で15秒でした」
「じゃあ、私が一番ですね。50分の取材で20秒でしたから」(笑)

 報道という公共性を民衆のために担保しなければならない組織において、「自己検閲が進んでいる」とか「原発報道は公式発表ベースに」などという実態が、もしまかり通るようになるとすれば、わが国における自由と人権は完全に解体されるでしょう。まさにこの点について警鐘を鳴らしたのが、今回の国連特別報告者ケイ氏の指摘ではないでしょうか。

 この熊本・大分地震の特集番組は、NHKとANNがやっていましたが、地震そのものに関する報道とコメントの水準は、ANNに質の高さを私は感じました。とりわけ、地震学者で公認の「地震予知」に疑問を投げかけてきた島村英紀さんがコメンテーターとして登場していた時間帯は特筆すべき内容だと思いました。

 気象庁が「まず本震があって、徐々に収束していく」という通常の地震のパターン通りにしか発表してこなかった点を鋭く指摘して、いち早く、島原・熊本から大分にまたがる中央構造線に即した断層帯の問題を指摘していました。

活断層を流れる荒川-大宮・川越付近

 この中央構造線は、埼玉県の長瀞から嵐山渓谷にも連なっています。直下型地震の可能性をもつ活断層としては、川島町からさいたま市にかけての荒川断層帯があります。荒川断層帯は、活断層が川になっているのですから、考えるだけでもいささか恐ろしい。

 この辺は、スーパー堤防を造成した大宮と川越の境付近の荒川ですけれども、荒川断層の直下型地震にも耐えることを想定した設計・施工になっているのでしょうかね? 地震が起きて「スーパー堤防」はあっけなく決壊し、「水害のことは考慮していましたが、直下型地震は想定外でした」なんて発表するのでしょうか? このような問題を取材する「当たり前のジャーナリスト」って、どこかにいるのでしょうか?