宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
成年期からの親子関係
休日になると、近所の公園に必ずやってくる「親子」がいます。60歳前後のお父さんと30歳前後の知的障害のある娘さんです。娘さんの肩や腰にしっかり手を添えて、歩く方向を保持しようとするお父さん。親子がもつれるように歩いているように見えます。
公園でしばらく休みをとって、どこかにまた歩いていく光景を目にするだけなのですが、私個人の父親と娘に重ねてこの親子を見ると、いささか複雑な気持ちに駆られます。
親の子の養育に対する法的責務は、未成年の子どもの親権者である間だけのものです。それを過ぎれば、民法上の扶養義務者にすぎませんから、子をしつける権利や子どもの財産を管理する権利は消失します。
子どもの成長・発達・自立の観点から言えば、子育ての終結に向けて、子がいつまでも親だけに頼らないように、親がこれまでのような親であることからフェードアウトしていくことがもっとも大切なことだと自覚してきました。
このような子育ての終結に向けた営みは、親子関係を終了させるものではなく、葛藤を含む親子の慈しみ合いをより深めていくための、一つの大切な節目にあたります。
ところが、障害のある子どもを育てる親御さんの中には、子どもが成年に達してもなお、未成年の時代と同様に、養育・養護・介護のいっさいに労力と心配りをし続けなければならない方が大勢いるのです。
障害のある子ども期のお子さんを育てる親御さんの営みに、障害のない子どもの場合との一般的な比較で、明らかに大きな負担が強いられていることは間違いのない現実です。小中学校や特別支援学校が、障害のある子どもに対する親の大きな支援や配慮を前提にして学校教育の取り組みを進めようとする一般的傾向には、根強いものがあります。
運動会に遠足、そして修学旅行等に、親の付き添いや介助を実質的に強制(「協力を求めます」などという言葉を使うでしょうが)するような取り組み方は、少し前までなら当たり前のことでした。
障害者差別解消法がこの4月から施行されますから、もはやこのような事態は学校から一掃されるものと期待しています。しかし、子どもが成長・発達するプロセスにおいて、親・家族を子ども支援の社会資源と捉える傾向的態度の問題は、教育・福祉領域の支援者になかなか自己覚知されてこなかったといっていいでしょう。
現在、このような親・家族を支援者としてネットワークに組み込む支援課題の最たるものの一つは、就労支援にあると考えています。特別支援学校が就労自立に向けた取り組みを進めるときに親の支援は当然視されているように思えますし、これまでの若い障害のある人の就労移行・職場定着の取り組みにおいても同様の傾向が根強くありました。
就労・職場定着支援の中で、親子関係を未成年時代のものから成年同士の関係へと組み替えていくことこそ支援課題に据えるべきものであって、未成年時代の親子関係をずるずると延長させるような支援者役割を「ネットワークの一員」と称して位置づけることに、私は反対です。親の子に対する思いの搾取でしょう。
2月29日のブログに記した44歳の障害のある息子を74歳の母親が殺してしまった事件のような問題発生の要因は、いつまでも「親」であることを強いる制度と実践の側にあるのではないでしょうか。大阪地裁の判決は、長年の介護の「苦労に同情しつつ、身勝手な犯行だ」と決めつけたようですが、この母親は究極の自責の念を背負うことを社会的に余儀なくされたことこそ真実です。
今、障害者総合支援法の改正案の中身に、就労定着支援サービスの新設が提案されています。ここで、親を支援者として当然視するのではなく、成年に向かう子と向き合えるような親子関係への組み替えをも支援課題とするサービス内容にすべきだと主張します。それは、成年後見制度の利用促進にも、意思決定支援の発展にも通じる重要課題であると考えます。
ほとんどすべての親は、子どもの成長と発達をこころから願っているものです。しかし、「子育てが楽しい」と回答する親の割合は、先進国の中でも極端に低いという日本の現実。このような子育てをめぐる困難を象徴し代表するものが、わが国における障害のある子どもの子育てではないでしょうか。