宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
意思決定支援の新時代
明けましておめでとうございます。
この1月4日、西日本新聞の配信した「頭の中の言葉解読」「障害者と意思疎通、ロボット操作も」の記事に眼を奪われました。意思疎通・意思決定支援に関する新時代の到来を告げる研究成果だと思います(引用は、すべて1月4日同新聞朝刊より)。
山崎敏正教授(九州工業大学情報工学部)の研究グループは、「頭で思い浮かべた言葉の一部を脳波の変化から解読することに成功した」とあります。「グー・チョキ・パー」や「春・夏・秋・冬」などのそれぞれの言葉が、発声時と無発声時でほぼ同じ波形を示すことを突き止めました。
すでに五十音の一部でも識別に成功しており、今後すべての音の波形を分析できれば、単語や文章の解読が可能となるそうです。「研究が進めば、障害で言葉を話せない人との意思疎通や、音が伝わらない宇宙空間や水中での通信手段への応用が期待できる」と。いうなら、意思疎通・意思決支援ロボットの実現が展望できるようになったということです。
それだけではありません。「動けと念じればロボットを操作できるSFのような応用も可能となる」ため、全身性マヒのある人の意思にもとづいて食事介助や体位転換をしてくれる介護ロボットへの応用に、意思決定支援ロボットと動作自立支援ロボットの接合によっては完全動作自立までが将来的に展望できるかもしれません。
ペッパー(ソフトバンク)やアシモ(ホンダ)とつなげると、言語表出のない人が頭の中で「新聞を郵便受けから取ってきてほしい」と念じれば、ちゃんと取ってきてくれる時代の到来は、さほど遠くないと考えてよいでしょう。
このような研究がさらに進み、言葉や文章の解読だけでなく、頭の中に浮かんだ表象までが脳波によって解読できるようになれば、「思考と言語」の機能に制約の大きい人たちとの意思疎通・意思決定支援に飛躍的な発展がもたらされることは間違いありません。
代行意思決定を正当化する余地は、ほぼ完ぺきに無くなったと言えますね。このようにして、言語表出が難しい人の意思を確かめることのできる手立てが確立されてくると、これからは双方向のコミュニケーションをゆたかにすることのできるような技術と活用方法の解明・開発に期待したいものです。
さて、私の手元に『21世紀の福祉』(福武直・阿部志郎編、中央法規出版、1988年)という書物があります。年末に大学の研究室を整理していると眼にとまりました。21世紀である今日から読み返したとき、当時の主要な論客の「知」に関する歴史的評価が可能だと思えたからです。
単独の論稿部分を読むと、当時日本女子大学教授だった佐藤進先生が執筆された第3部「福祉行財政の基本方向」だけはかなりの正確さで今日を予測していたことが分かります。これから、対談部分を読むところで、私の評価内容を公表することに意味があると判断した場合は、近日中のブログに記したいと思っています。