宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
えっ?
仕事に忙殺されたこの一週間に、耳を疑う二つの報道がありました。一つは、旭化成建材をめぐる基礎杭問題の報道です。もう一つは、図書館と新刊書について、ある大手出版社の社長発言の報道です。
まず、杭基礎の報道についてです。会社発表通りの用語を使用する報道では、データ照合できたうちの1割を超える確率で「データの流用」が確認されはしたが、横浜でマンションが傾いた「データの改ざん」の物件を除き、建物の安全性に問題があるものはなかったといいます。
「データ流用」はデータを流用しただけで建物の安全性には何ら問題なく、横浜のマンションの「データ改ざん」は固い地盤に杭が達していないことを隠したケースであり、これについてのみ問題がある、という会社の主張をそのまま宣伝する「報道」です。
大嘘をついてきた企業が、建物が安全であることの客観的根拠を何ら提示しないまま「安全性に問題はない」と言い張ることをそのまま垂れ流すことが、真実を報道していることになるのですか? NHKは「データ流用」「データ改ざん」の使用を貫き、朝日新聞は「データ偽装」という用語を使いました。建物の安全性についての判断はできない段階であるが、データはでたらめなのだから、「データ偽装」があるべき報道の表現だと考えます。
次に、新潮社の社長が図書館関係者を前にした発言です。「本の売り上げが減っているのは図書館の貸し出しの増加が一因である」として、出版社と著者の合意がある一部の新刊書は、新刊時から「図書館の貸し出しを1年間猶予してほしい」か「図書館には一般より高値に設定した新刊書特別料金で購入してもらいたい」との考えを明らかにしたのです。
年内をめどに、新潮社などが中心となって図書館側に発売から1年間は一部の書籍を貸し出さないように求める文書を送りたいとのことです。この社長発言の報道では、テレビが大きく取り上げ、新聞報道はさっぱりの感があります。新潮社の広告収入は、新聞社にとっては垂涎の的なのでしょう。原発報道の教訓はどこに行ったのでしょうか。
それにしても、図書館という公益施設の役割に何も留意することなく、知識と教養と高い年収のある大出版社の社長さんが、企業の利益を守る(著者に利益は「露払い」に過ぎないと思います)ためだけの発言をするのはいかがなものでしょうか。出版人としての良識や自負心を微塵も感じさせないところに、事態の深刻さがあると考えます。
人口の減少(とくに若い書籍購入世代の減少)、貧困の拡大、生活費に占める情報通信費の拡大、情報獲得手段と娯楽の多様化など、出版不況の要因は複雑で構造的な性格を持っています。新刊から1年間の貸し出し猶予期間を設定すると、多くの人たちが貸し出しの解禁される1年後から図書館で借り出すだけの運びになるだけではないのか。
これらの問題点を出版人と著者と多くの読者たちと議論したうえで出版不況の打開策を合意形成していくのではなく、図書館という公的機関を手っ取り早くやり玉に挙げるというのは、出版社の公共性から言っても筋違いであるし、やり方が下品・下劣に類するものではないでしょうか。
しわ寄せしやすいところをターゲットにして、自らの身の安全だけを守ろうとする。障害のある人をめぐる差別・虐待の発生構造と同様の組織的腐敗をこれらの業界に感じます。